第175回芥川賞・直木賞が7月15日に発表され、直木賞には朝倉かすみ氏の『けんぐゎい』(光文社)が選ばれた。江戸時代を舞台に、過酷な運命を背負いながらもしたたかに生きる女性の姿を描いた時代小説で、朝倉氏は女性最年長となる65歳での受賞となった。
直木賞の由来と候補作
直木三十五賞は今回で175回目を迎える。名称の由来となった直木三十五は、当初「直木三十一」というペンネームで、年齢に合わせて数字を1つずつ増やしていたが、後に直木賞を創設した菊池寛の忠告で「三十五」で固定したという逸話がある。
今回の候補作には、累計売上19万部(※1)を突破した若林正恭氏の『青天』(文藝春秋)、蝉谷めぐ実氏の『見えるか保己一』、原田ひ香氏の『#台所のあるところ』、累計9万部(※2)以上の凪良ゆう氏『多類婚姻譚』などが並んだ。選考会では『けんぐゎい』と『見えるか保己一』の2作に絞られ、最終的に『けんぐゎい』が受賞を果たした。
物語の内容と魅力
『けんぐゎい』は「ウニコール」「りんぼ」「ガストホイス」「くゎいぶつ」という4つの章で構成され、序盤から中盤は主人公にとって苦しい展開が続くが、後半で逆転劇を見せる。
主人公のふゆは、幼い頃に疱瘡を患い顔にあばたが残った女性。周囲の大人から冷遇されながらも、「微笑」を武器に過酷な環境を生き抜こうとする。妹のりよと母の3人で暮らす中、おじの紹介で手習いの師匠・疋田重右衛門の元に通い始め、人生が動き出す。
しかし、師匠の後継ぎとして現れた宗三郎によって運命は暗転。ふゆは手籠めにされ妊娠させられるが、怪力で大食いの同僚・つるらとともに「けんぐゎいの国」を作ると決意し、運命に抗う。作中の登場人物には「普通の人」がほとんどおらず、心優しいちゅう太に対し、恩人のひでさんが「お前は俺が見つけた100万人に1人の男の子だ」と語る場面がある。普通から外れた人々もそれぞれが特別で唯一無二の存在だというメッセージが込められている。
朝倉かすみ氏の経歴と受賞の裏話
朝倉氏は1960年生まれの北海道出身。03年に『コマドリさんのこと』で北海道新聞文学賞を受賞し、翌04年に『肝、焼ける』で小説現代新人賞を受賞してデビュー。その後も『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞、19年の『平場の月』で山本周五郎賞を受賞している。『平場の月』は25年11月24日付のオリコン週間文庫ランキングで2位に入り、累積14万部(※3)以上を売り上げる最大のヒット作となった。
今回は3回目の直木賞候補で、女性最年長の65歳での受賞。選考委員の辻村深月氏は「当時は声を上げることが難しかった女性たちの生き方を、物語の力で照らそうとした点が高く評価された」と述べている。朝倉氏は候補の連絡を受けた際、サイゼリヤの前で泣き崩れ、友人に心配されたという。また、占いで担当編集者との運勢が良かったため刊行を急いだという裏話もあり、作品の重厚さとのギャップが読者を惹きつける。
直木賞や芥川賞は新しい作品や作家に出会うきっかけを与えてくれる。08年の直木賞受賞作である東野圭吾氏の『容疑者Xの献身』など、数多の名作が生み出されてきた。受賞作家の今後の活躍からも目が離せない。ぜひこの機会に、特別なメッセージが込められた『けんぐゎい』を手に取ってみてほしい。
※1、2、3 2026年9月7日付/オリコン調べ



