動物園や水族館で人気の「ふれあい展示」。しかし、そこで飼育される動物たちは、想像以上のストレスと健康リスクにさらされている。獣医病理医の中村進一氏のもとには、ふれあい動物の病理解剖依頼が頻繁に寄せられる。中でも衝撃的だったのは、あるアヒルの突然死だ。
肝臓が白く「フォアグラ」化していたアヒル
そのアヒルは、ふれあいコーナーで来園者に餌を与えられる役割を担っていた。ある日、突然死体で見つかった。中村氏が解剖したところ、肝臓が異常に肥大し、白く変色していた。いわゆる「フォアグラ」の状態だ。フォアグラはガチョウやアヒルに強制給餌して作られるが、このアヒルは強制給餌を受けていたわけではない。ではなぜ、肝臓が脂肪化したのか。
原因は、来園者による過剰な餌やりだった。ふれあい展示では、訪れた人が自由に餌を与えられる。アヒルは与えられるままに食べ続け、栄養過多となった。さらに、常に人に囲まれるストレスが加わり、代謝異常を引き起こしたと考えられる。野生のアヒルではまず見られない病態だ。
最期にリンゴを食べて…
中村氏は「このアヒルは、最期にリンゴを食べていた。おそらくそれが最後の食事になった」と語る。餌を与える行為そのものが、動物の命を縮める結果になったのだ。
ふれあい展示の動物たちは、人と直に接する時間が長く、時に扱いに慣れていない人に触られることもある。そのぶん、通常飼育されている動物よりも大きなストレスや健康上の負担が大きくなりがちだ。
14歳のウサギの死因
もう一つのケースは、14歳のウサギ。高齢ではあったが、死因はストレスによる免疫力低下が引き金となった感染症だった。このウサギも長年ふれあい展示に供され、毎日多くの来園者に抱かれていた。中村氏は「ウサギは本来、捕食者に抱かれることに強い恐怖を感じる動物。それが慢性的なストレスとなり、寿命を縮めた可能性がある」と指摘する。
ふれあい展示で考えたいこと
「かわいい」だけではない、ふれあい展示の裏側。中村氏は「命の学びにつながる展示である一方、動物たちの負担も考えなければならない」と警鐘を鳴らす。動物園や水族館は、飼育環境の改善や餌やりのルール徹底など、動物福祉に配慮した運営が求められる。
ふれあい展示が、動物にとって本当に「幸せ」なのか。私たち来園者も、その代償について真剣に考えるべき時かもしれない。



