スモーキングルーム第299回:煙の忠犬と金の鍵、変わりゆく森のホテル
スモーキングルーム第299回:煙の忠犬と金の鍵

連合国軍が撤退してから、森のホテルのコンシェルジュである煙のもとには、国外の貴族や高級ホテルからも仕事のオファーが舞い込むようになった。煙は美食で有名な国が築いたホテルマンのネットワークにも属しており、一流のコンシェルジュだけに与えられる金色の鍵の形をしたバッジを襟に光らせていた。そのバッジについて訊かれると、煙は恭しく胸に手を当て、「これはお客様のためにどんな扉も開けて差し上げ、極上の時間をお約束する者の証でございます」と答えた。この金のバッジは、ホテルの客や従業員から「金の鍵」と呼ばれるようになっていた。

煙の孤高の姿勢と周囲の評価

しかし、煙自身は異なっていた。親交を持とうとする同業者を巧みにかわし、ホテル同士の繋がりも最低限に留めた。常連客からの信頼は厚かったが、多くの者は煙が森のホテルの番人であり続けることを望んでいた。煙の接客を目の当たりにしたホテルマンたちは感服する一方で、「あれは森のホテルの忠犬だ」と揶揄した。

金の鍵の焦りと煙の秘めた可能性

金の鍵である煙に対して、周囲は時に焦れったさを感じていた。もし戦争がなければ、煙は二十代のうちに世界的に有名な星つきホテルで経験を積めたはずだ。煙が望めば、揃いの「金の鍵」のバッジをつけることだってできた。むしろ、黄金の賞賛は煙にこそ相応しいと誰もが思っていた。正確無比な仕事を毎日続けているのに、どうしていつも控えめで、欲がなく、このホテル以外には目もくれないのか。その理由は、煙の体内に埋め込まれた針金のせいなのか――そう金の鍵は考えていた。

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ザックの出現と煙の変化

そんな中、ザックという人物が現れ、煙は少し変わったように思えた。ザックとの出会いが煙に何かをもたらしたのか、その変化は周囲にも感じ取れるものだった。

サングラスの軍人の帰還

そんな折、サングラスの軍人がやってきた。連合国軍が撤退してから初めてのことだった。彼は軍服ではなくラフなジャケット姿だったが、相変わらずサングラスをかけ、煙草を咥えていた。金の鍵が「お帰りなさいませ」と言うと、サングラスの軍人は「お帰り、か」と口の端で笑った。金の鍵は「もうこの国はあなたにとって第二の故郷と言っても過言ではないかと」と続け、軍人は「まあ、そうかもな」と応じた。

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