ミュージカルのエンターテインメント性を高めるため、動画投稿サイト「ユーチューブ」の活用が相次いでいる。これまでほとんど公開されなかった制作の舞台裏を見せることが試みられ、新たな潮流となりうるか注目されている。
山崎育三郎、ボーイズグループをプロデュース
俳優の山崎育三郎が、ミュージカル俳優で構成されるボーイズグループをプロデュースする。メンバーを選ぶオーディションは現在進行中で、その模様は公式ユーチューブで公開予定だ。山崎はグループを作ろうと思った理由について、「この10年ほど様々な活動をさせてもらう中、ミュージカル人気が盛り上がっている実感はありつつ、日本全国を巻き込みながら業界を引っ張っていく存在がいればとの思いがあった」と語る。
ユーチューブを活用するのは「過程を見せていくことでファンの思い入れは深まります。そうすることで注目が高まっていく」との考えから。グループの人数などについては検討中だが、「こういう子が欲しいというよりは、いろんな歌声、スタイル、個性を持つ子がいるグループにしたい。それこそがまさにミュージカルだと思うから」と山崎。それぞれが様々なミュージカルに出演しつつ、グループのメンバーを中心としたオリジナル作品の上演なども実現したいという。「宣伝方法を含め自分たちから仕掛けていくことが可能という点で、オリジナル作品の価値向上にもつながっていく」とユーチューブ活用が業界への刺激となることに期待を寄せる。
音楽座ミュージカル、赤裸々な舞台裏が話題に
音楽座ミュージカルでは、今年1月に撮影されたオーディション風景を公式ユーチューブで公開。再生数は30万回に迫ろうとしている。俳優による歌い方や演技の違いはもちろん、合間に飛び出す俳優やスタッフの赤裸々な本音が見どころだ。「心が閉じちゃってる」「覚悟に信頼がない」といったドキッとさせられる発言も多く、引き込まれる内容となっている。
音楽座ミュージカルは1987年設立、劇団員約40人を擁する。プロデューサーの冨永波奈によると、以前からユーチューブで映像を配信していたが、チケット販売につながっていない悩みを抱えていた。「現状を変えるため動画制作を外部依頼することにした」という。依頼先を探す中で、著名な映像ディレクターの渡辺永人が独立していたことが判明。SNSを通じてメッセージを送ると、「自分がやりたいと思わないと、できません」と返ってきた。「動画制作会社はたくさんあり、どこも『お任せください』という感じ。そんな中、渡辺さんは信頼できると思った」と冨永は振り返る。
打ち合わせの後、今年初めから撮影し、2月に配信をスタート。冨永は「直前で配役が変わったり、俳優たちが悩みを明かしたり、劇団の日常風景がコンテンツになると、自分たちは思っていなかった。お願いして良かった。1本目の動画からちゃんと“バズ”ったのはすごい」と話す。撮影・編集に関してNGは一切なし。日本では海外の有名ミュージカルの上演がまだまだ主流で、権利関係などで舞台裏の公開が難しいが、「そこはオリジナル作品を上演する劇団の強み。売り上げにつながるならと、みんなに納得してもらった」と冨永。7月上演の「マドモアゼル・モーツァルト」は目に見えてチケット完売までのスピードが速かったという。今後の目標は「東京1公演3万人のチケットを売ること」と意気込み、「そうなれば劇団員に還元できるし、セットなど演出にもお金がかけられる」と語る。
映像ディレクター・渡辺永人が語る成功の鍵
かつてタレントのローランドや谷桃子バレエ団のユーチューブを“バズ”らせた実績を持つ渡辺永人。音楽座ミュージカルについて「もともとミュージカルを見たことがなかったですし、音楽座ミュージカルの存在も知りませんでした。が、代表の相川タローさんと話した時に言葉の重みを感じ、『これは行ける』と思った」と話す。かつて谷バレエ団の動画を担当した際も芸術監督の高部尚子の人柄にほれ込んだ経緯があった。「見た人がグッとくるというか頭に残る言葉が出せる人物がいるかどうかは大きい」と指摘する。
動画編集の注意点として「テロップなどであまり説明しすぎないこと」を挙げ、「わかりやすさは大事だが、説明過多は見る気を失う。そのバランスが大事」と語る。ユーチューブには無数の動画があり、視聴者の目も肥えている中で、「ポイントは、いかにさらけ出せるか。出る側、動画を作る側の覚悟が見えた時、おのずと視聴者もついてくる」と言い切る。



