アジアパラ競技大会の開幕を前に、白血病で視覚障害となった三重県亀山市在住の中川桃子さん(36)が、母校の藤田医科大学(愛知県豊明市)を訪れ、毎年診察を受ける同大医学部の鈴木敦詞教授(63)と障害福祉をテーマに対談した。
「困っている人がいたら声をかける社会に」
中川さんは障害福祉の講演活動を精力的に続ける大きな目的として、「困っている人がいたら声をかける社会になってほしい」と語る。ただ、見知らぬ人への「ひと声」は意外とハードルが高いという。
鈴木教授はスイスの大学病院での2年半の留学経験があり、欧米の社会福祉に詳しい。生後6か月の子どもを連れた家族3人での留学で、ベビーカーを押して現地のトラム(路面電車)に乗った際のエピソードを明かした。
「混み合う車内にベビーカーは乗せられそうになかったが、数人の市民が『私は1本後でいい』と、急いでいる人も降りてスペースを空けてくれた。ベビーカーを乗せる時は、ピアスと入れ墨の若者が手助けしてくれ、お礼を言おうとすると立ち去ってしまった。すべてが当たり前の流れだった」と振り返る。
一方、日本では、ベビーカーや車いすで混み合う公共交通機関を利用する際、助けてくれる人もいるが、迷惑そうな顔をする人、露骨に文句を言う人、「乗る側のマナーだろう」と批判する人も少なくない。
日本の社会構造の影響を指摘
鈴木教授は日本について、「地域の同じコミュニティー(村社会)に生まれ、皆が同じ考え方で同じ行動をしてきた。農作業など村の内側での助け合いは当然だが、村の外側に対しては、手を出していい人かどうか分からない」といい、そうした社会構造が文化として染みついたことが影響しているのではと指摘する。
混んだ車内にベビーカーで乗る行動は、村社会に例えれば少数派に当たる。障害のある人も含めて少数派の人は「今の日本では、すごく不自由を感じてしまうことがあるのではないか。日本人が単に、恥ずかしがるというだけではない気がする。いいか悪いかではなく、文化的な素地がそこにある」と鈴木教授は読み解いた。
中川さんは白杖を手に一人で歩く際、困った時に声を掛けてくれる人もいれば、素通りする人もいると実感している。「日本人は恥ずかしがったりするせいかな……」と思うこともあったが、自然災害の多い日本では、「障害の有無にかかわらず、避難所で『人様に迷惑をかけられない』という意識が働いて、避難民であるはずの自分の要望や希望が伝えられないでいると聞く」と語り、鈴木教授の解説に相づちを打った。
アジアパラへの思いと今後の展望
中川さんは、アジアパラ大会の聖火リレーでランナーとして名古屋市の名城公園を走る。「身体機能に合わせた目標に取り組み、結果を残すことは素敵なことだと思う。アジア大会と同等に関心を持ってほしい」と意義を語る。
鈴木教授は「残った身体機能をどう鍛え上げれば素晴らしいことができるのか。ハンディキャップのない人と同じように可能性がある。それらが一般の方の目に触れる機会というところに価値がある」と語り、メディアの役割と責任にも言及した。
中川さんは一人で外出する際、自宅から最寄り駅まで徒歩数分の道を白杖を手に歩く。このコースの白杖指導だけで歩行訓練士から「独り歩き」のゴーサインが出るまで2年の時間を費やした。そんな努力があることを社会が知ることも、共生への第一歩といえるのではないだろうか。
中川さんへの講演依頼などは三重県亀山市市民活動・ボランティアセンター「ぷらっと」(0595・84・5008)へ。