日本を代表する版画家・長谷川潔(1891~1980年)の画業の全貌に迫る展覧会「長谷川潔展-パリに生きた銅版画家の軌跡」が、東京都港区のパナソニック汐留美術館で開催中だ。屈指のコレクションを誇る町田市立国際版画美術館の所蔵品を軸に、名品約130点が並ぶ。
パリで確立した独自のメゾチント技法
20代で芸術家を志した長谷川は、文芸誌の装画制作を経て、印刷物でも線や明暗を美しく表現できる銅版画技法に傾倒。日本での銅版画研鑽に限界を感じ、1918年、27歳でフランスへと旅立つ。「独立画家=版画家協会」の一員となってパリ画壇で地歩を固め、生涯を同地で送った。
技法書や古版画から長谷川が見いだしたのが銅版画技法の「メゾチント」だ。仏語で「マニエール・ノワール(黒の技法)」ともいい、漆黒の背景やモノクロームの繊細な諧調と滑らかな絵肌が表現できる。長く絵画の複製で用いられた技法だが、当時のフランスではほぼ絶えており、担当学芸員の宮内真理子さんは、「芸術家の表現手段としてこの技法を用いた点が、長谷川の非常に独自性のある部分」と評価する。
幻想の静物画と古典の挿絵
70代の長谷川が手がけた代表的作品《アカリョムの前の草花》は、花瓶の花と水槽の魚を描いた幻想的な静物画。静謐な黒の世界の極致で、宮内さんは「花と魚が同化し、画面の小さい世界に無限の宇宙が凝縮されている。万物皆同じという世界観が表れている」と話した。
メゾチント以外の技法にも精通し、仏訳『竹取物語』の挿絵では、シャープな線と洗練された構成で古典をモダンに昇華させた。「彼の芸術は努力のたまもの。芯の強い完璧主義者だが、ささやかな草花を端正に描く感性は女性的で、アンビバレントな部分も魅力」と宮内さんは絶賛した。
開催概要
展覧会は9月23日まで開催中。下絵や未収録の挿絵も展示され、長谷川独自のレースを転写する技法が使われた繊細な作品も見どころだ。



