引退から丸5年、主に秋田地区で活躍していた元JR東日本のキハ40系気動車が2026年4月、タイの首都バンコク近郊で再デビューを果たした。2021年3月のダイヤ改正をもって男鹿線・五能線の定期運用から退いたキハ40形・キハ48形の20両がタイ国鉄(SRT)に譲渡され、現在はドンムアン空港の最寄り駅であるドンムアンと観光地として知られるアユタヤの間、約50kmで「通勤列車」として運行している。SRTは2022年以降、日本からの中古車両を導入しており、今回のキハ40系は元JR北海道のキハ183系気動車、14系客車に次ぐ3形式目となる。
「素晴らしい状態」と評価されるキハ40系
従来、日本が中古車両を輸出していたインドネシアやミャンマーが新車の導入に舵を切っている中、SRTは中古車両の導入が続く。いずれの車両も現役時代と同じか、それをオマージュしたようなデザインで、車内にも日本語の表記がそのまま残されている。日本での現役時代へのリスペクトが感じられるローカライズには目を見張るものがある。
SRT勤続35年の副チーフ技術エンジニア(Deputy Chief Mechanical Engineer)、アディソン・シンハカーン氏は「古い車両を走らせることは、新車をそのまま買ってきて走らせるよりもはるかに難しい。車両を改造し、改良を加える作業は本当に困難の連続で、心が折れそうになることもあった。本線での営業運転が始まったときに、トラブルを起こさず、どうすれば完璧な状態に仕上げられるか、凄まじいプレッシャーを感じた」と語る。
日本の中古車両導入「他国からより容易」
アディソン氏は、日本からの中古車両導入が他国からよりも容易である理由として、日本の鉄道車両の高い整備水準と、SRTの技術者が日本の技術に精通している点を挙げる。「日本の車両は詳細なマニュアルとともに提供され、部品の供給も比較的安定している。また、我々の技術者は日本の鉄道技術に対する理解が深く、改造やメンテナンスを効率的に行える」と説明する。一方で、気候や線路条件の違いから、空調システムや台車の改良など、現地に合わせた調整が必要だったという。
運行区間は拡大検討
現在、キハ40系はドンムアン~アユタヤ間で運行されているが、SRTは将来的に運行区間の拡大を検討している。アディソン氏は「観光客にも人気のこの列車を、さらに多くの人に利用してもらえるよう、路線の延伸を計画している。具体的な時期は未定だが、バンコク市内への乗り入れも視野に入れている」と述べた。キハ40系の車内は、日本の現役時代を思わせる座席配置や吊り革がそのまま残り、日本語の案内表示も見られることから、鉄道ファンや観光客の間で「スペシャル通勤列車」として話題を呼んでいる。
現場の技術が支える中古車両
キハ40系のタイ到着後も、現地での調整に約1年を要した。アディソン氏は「日本で徹底的に整備された車両でも、タイの高温多湿な気候や線路の状態に合わせるには多くの手間がかかる。特にブレーキシステムとエンジンの冷却系には苦労した」と振り返る。SRTの技術チームは、日本のメーカーや技術者と連携しながら、現地での試運転を重ね、問題を一つ一つ解決していった。
中古車両は日本とタイ「友好の証」
アディソン氏は、日本からの中古車両導入を「日本とタイの友好の証」と表現する。「これらの車両は単なる輸送手段ではなく、両国の技術協力と文化交流の象徴だ。タイの人々は日本の鉄道文化に敬意を払っており、車両を大切に扱っている。今後も日本からの車両導入を継続し、タイの鉄道網の近代化に貢献したい」と語った。SRTは今後も日本からの中古車両を積極的に導入する方針で、次なるプロジェクトとして、元JR東日本の特急型車両の導入も検討されているという。



