俳優の綾瀬はるかさんが弁護士を演じる映画「ファーストボイス」が全国で公開されている。物語は、平成初期のころに福岡県で実際にあったセクシュアルハラスメントの裁判から着想を得ている。セクハラという概念がまだ浸透していない時代に、2人の弁護士が奮闘した姿を描く。
弁護士2人による事務所立ち上げ
バブル絶頂期の1989年、辻本育子・元弁護士(77)と原田直子弁護士(73)は、福岡市中央区に「女性協同法律事務所」を立ち上げた。辻本さんは熊本県南阿蘇村出身、原田さんは福岡県生まれ、宮崎市育ち。2人とも九州大法学部を経て弁護士となり、子ども3人の母親でもある。
事務所の立ち上げと同じ年、福岡市の出版社に勤めていた原告の女性から職場での嫌がらせの相談を受け、会社と上司を相手に裁判を起こした。「福岡セクシュアルハラスメント訴訟」である。
日本初のセクハラ裁判の判決と影響
上司の言動を性差別によるハラスメントだと主張し、会社は労働環境を改善する義務があるのに、逆に退職を迫ったと訴えた。福岡地裁は92年、会社と上司に165万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した。会社側は控訴せず、判決は確定した。
その後、労働省(現・厚生労働省)の婦人少年問題審議会がセクハラ防止について議論し、事業主に配慮義務を規定した男女雇用機会均等法改正(97年)につながった。日本初のセクハラ裁判として、社会の常識を変えた「最初の声」とされる。
社会の変化を振り返る
辻本さんは「セクハラはそれほどありふれた問題だった。配慮しない会社にも責任があるという認定が、経営者だけではなく、社会全体にショックを与えたんだろうと思います」と、社会の変化を振り返る。
その後も2人は女性たちの味方であり続けた。熊本県で国体選手だった女性のケースなど、被害者に寄り添い、心病む日もあったという。