今年前半に行われたライブやイベントの中から、印象深かったものを振り返る。高橋幸宏をしのぶ「ワールドハピネス」、坂本龍一の立体映像作品「KAGAMI」、そしてサンダーキャットのライブなど、現場でしか味わえない体験をまとめた。
高橋幸宏をしのぶ「ワールドハピネス」
6月28日、東京・国立代々木競技場第一体育館で音楽フェス「ワールドハピネス」が開催された。同フェスは、YMOのメンバーで3年前に死去した高橋幸宏が発起人となり、2008年から東京・夢の島公園陸上競技場などで行われていた。坂本龍一、細野晴臣をはじめ、幸宏に近いアーティストが出演することで知られ、久々の復活となった。
出演者の幸宏への思いがにじむフェスだった。高野寛やゴンドウトモヒコ、高田漣ら、幸宏と共演してきたミュージシャンが集合した「SP YT session」では、英バンド・ジャパンのメンバーだったスティーヴ・ジャンセンも登場し、幸宏と1980年代に出した楽曲「STAY CLOSE」を披露。洒脱で優しいサウンドのポップソングだ。また、鈴木慶一も加わり、慶一が幸宏と組んだビートニクスの名曲「Ark Diamant」を熱演した。
会場では過去のワールドハピネスの映像も流され、幸宏の元気な姿が映し出された。しかし、思い出に浸るだけではなく、先鋭的なサウンドを生み出す猛者たちによる刺激的な演奏が続いた。細野晴臣のステージでは「AIWOIWAIAAOU」「PLEOCENE」といった艶やかな楽曲が、パーカッションとコーラスに角銅真実、キーボードとコーラスにクラムボンの原田郁子、ベースに細野の孫・細野悠太という布陣でカラフルに奏でられた。高野を呼び込み、幸宏と細野が組んでいたスケッチ・ショウの楽曲も演奏された。
芸達者な清水ミチコは高田らとYMOの曲をアコースティックカバーし、モノマネも披露。スチャダラパーは「サマージャム'95」で真夏の浮かれた世界へ誘った。幸宏はユーモアの人でもあり、故人をしのびつつも明るく楽しいイベントだった。
坂本龍一の複合現実作品「KAGAMI」
6月29日、ワールドハピネスの翌日には、坂本龍一(以下、教授)のピアノ演奏を3次元立体映像で再現する作品「KAGAMI」の内覧会が大阪市内で行われた。この日は公開を記念し、東京駅から新大阪駅まで新幹線車両を貸し切り、車内でライブを行う「SAKAMOTO EXPRESS」も実施された。教授と親交のあった蓮沼執太率いるバンドが演奏し、笙やサックスの奏者も参加。タブラ奏者のユザーンが進行役を務め、参加者を楽しませた。
設備セッティングの間、ユザーンが大阪への移動にちなみ、地名の入った教授の曲を選曲。「ライオット・イン・ラゴス」や「ヴェネチア」が流れた。最初に聴いたのは約45年前だが、時は流れ、教授も3年前に旅立った。そして自分は亡き人の「公演」を見るために旅をしている――言いようのない感情がわき上がった。ライブでは蓮沼がキーボードを操り、笙やサックスが空間を微妙に震わせ、ノイズのような音も交じる実験的な即興演奏が繰り広げられた。
映像作品「RYUICHI SAKAMOTO & TIN DRUM KAGAMI+」は、他のインスタレーション作品とともに楽しめる。ディレクターのトッド・エッカートは、日本向けセットリストに人気曲「美貌の青空」を入れたと語った。作品が披露されるスペースには椅子がぐるりと並べられ、専用の透過型ヘッドセットを装着。スクリーンはなく、ヘッドセット内部の映像を見るが、透過型のため他の観客や会場の様子もわかる。仮想世界と現実世界が同時に見える仕組みだ。
開演とともに暗闇にピアノと教授が現れ、1曲目は「Before Long」。観客は立ち上がり教授に近づく。実際には何もないが、前に進めば近づき、後退すれば遠ざかる。記者は至近距離で鍵盤を弾く教授を見た。正面から背中側に移動し、後ろ姿も見られる。実際の演奏を3日間収録し、データ化・CG処理したもので、顔や指の動きは自然。教授の声で曲の説明が聞ける場面もあり、宇宙空間や都市の光景、蛍の光が降る演出も美しかった。音響は臨場感にあふれ、「The Seed And The Sower」の激しいパートでは気持ちが高ぶった。記者のヘッドセットは途中で不調になったが、すぐに交換対応。複合現実という新技術に触れられた貴重な体験で、公演としても十分楽しめた。
サンダーキャットの圧巻ライブ
教授とも縁のある米国のベーシスト、シンガー、ソングライター、サンダーキャットのライブも忘れられない。5月20日、東京・豊洲PITで行われた。初めて見たのは2011年の東京公演で、彼のベースの腕前とともに、同行していたピアニスト、オースティン・ペラルタの高い技量に驚かされた。しかしオースティンは翌年に死去。追悼曲としてサンダーキャットが制作した作品には教授の「El Mar Mediterrani」が使われ、抑制された声とドラマチックな旋律が融合した情感あふれる楽曲だ。サンダーキャットは坂本龍一トリビュート盤でも「千のナイフ」に歌詞をつけて歌っている。
教授もサンダーキャットを「天才ベーシストで、本人の歌声にもグルーヴ感がある」と著書で絶賛。人懐っこいキャラクターで日本でも人気を獲得し、今回も盛況だった。巨大な猫を模したステージセットも目を引いた。キーボードのデニス・ハム、ドラムのジャスティン・ブラウンとのトリオで卓越した演奏を披露。「アイ・ラブ・ルイス・コール」ではジャスティンの強烈なビートが前に出て、サンダーキャットのベースも激しさを増す。新作「ディストラクテッド」に顕著なメロウな歌ものも、いつの間にかジャムセッションのように白熱。まるでジャズ・フェスティバルに来ているような気分になった。ベースはメロディアスで高速フレーズでもキャッチー。終盤の「ゼム・チェンジズ」もベース、ボーカルともに独特の響きがあり、表情豊かだった。
ビートレコードの役割
サンダーキャットの作品は日本ではビートレコードからリリースされている。ステレオラブの新作も同様だ。ビートはベガーズグループやワープ、ブレインフィーダーといった海外の先鋭的なレーベルの作品を扱い、ここから発表される作品を追えば英米の良質な音楽に出会える。洋楽人気の低迷が言われるが、国内盤リリースと日本語情報の提供は重要だ。ネット検索時に日本語のわかりやすい紹介があることで多くの人が助かっている。ビートに限らず、洋楽レーベルには頑張ってほしい。



