閉館からわずか4日後の「丸の内TOEI」に、黄色いコンパクトカーが突っ込んでいた。劇場の扉と壁を突き破り、客席へ進入した車。その前方では座席が無残に壊れ、壁から外れた『仁義なき戦い』(1973年)のポスターが大きく折れ曲がっている。スクリーンでは同作の映像が流れ続けていた。
もちろん、事故ではない。映画『藁にもすがる獣たち』(9月25日公開)のクライマックスを飾る、大規模なアクションシーンの撮影だ。
東京・銀座で長年親しまれてきた映画館「丸の内TOEI」は、東映会館の老朽化と建て替えに伴い、2025年7月27日に閉館した。そのわずか4日後、歴史ある映画館は大胆なロケーションとして“最後の仕事”を果たした。昭和の東映を象徴する作品が映るスクリーンの前で、新たな東映映画のクライマックスが撮影される。その光景には、非日常的な迫力とともに、不思議な感慨があった。
取り壊し予定の映画館だから実現した大規模撮影
閉館直後の丸の内TOEIで撮影するアイデアは、同じ東映会館内にあった東映本社での打ち合わせから生まれたという。城定監督は「脚本段階で、何か面白いアクションをやりたいという意見が出ていました」と振り返る。「プロデューサーやアクション部のみんなと、何をやろうかと会議をしていたんです。その中で、ちょうど撮影の時期に丸の内TOEIが閉館すると聞きました。それなら映画館を使えるんじゃないか。映画館に車が突っ込み、その中でアクションをすることは可能なのか、というところから始まりました」
取り壊しが決まっている建物だからこそ、映画館内の扉や壁を実際に破壊する大胆な撮影が可能になった。城定監督は「本当にこんなことをしていいのかなと思いつつ、撮影のタイミングが重なったことに、何か運命的なものを感じました。もっと面白いものを作らなければいけないなと思いました」と語る。実現までには多くの調整が必要だったといい、「準備中は、本当に実現できるのかという状況だったので、やっとここまで来た、という感じです」と安堵の表情を見せた。
実際の扉や壁、座席を破壊したからこそ生まれた迫力は、セットで再現したものとは異なる圧倒的なリアリティーとして、完成作の画面に刻まれている。
客席に車が突入、成宮寛貴と青木マッチョが激突
この日撮影されたのは、物語のド派手なアクションシーンを飾る重要な場面だ。良介(成宮)は、1億円を持ち逃げしようと、ある場所に隠して逃走を図る。郷田組に追われる中、良介の舎弟でもある郷田組所属の組員“デメキン”(二ノ宮隆太郎)が手配した車に乗り込むが、後部座席には郷田組長の懐刀であるエリンギ(青木マッチョ)が潜んでいた。
車内で始まった良介とエリンギの乱闘。そのまま車は映画館へ突っ込み、扉と壁を破壊しながら客席エリアまで突き進む。撮影現場には、座席に突っ込んだ状態の黄色いコンパクトカーが止まっていた。車体には大きな損傷が見られないものの、フロントガラスは完全に割れ、衝突した周囲の座席は激しく破壊されている。突然の出来事に悲鳴を上げ、逃げ惑う観客役のエキストラたち。車から脱出した良介とエリンギは、今度は映画館内で激しい肉弾戦を展開する。エリンギが常に持ち歩いている生け花用の花小刀を良介に振り下ろすと、スクリーンに血しぶきが飛び散った。
客席に車が突っ込んでいるという異様な光景と、実際に壊された壁や座席が生み出す迫力。解体を控えた丸の内TOEIでなければ撮ることのできない、文字通り一度きりの撮影だった。
成宮寛貴「歴史ある劇場を使わせてもらえて光栄」
成宮は、8年ぶりの俳優復帰作となったドラマ『死ぬほど愛して』(2025年)に続き、城定監督の作品に出演。本作では、金と欲望にまみれた危険な警官を演じている。「本当に歴史のある劇場をぶっ壊してしまって(笑)。このタイミングで映画に使わせていただけて、本当に光栄です」と笑顔を見せた。
一方、“筋肉芸人”としてブレイクし、俳優として映画やドラマにも活躍の場を広げている青木は、筋力トレーニングやラグビーを通して鍛え上げた大きな体を生かし、本格的なアクションに挑んだ。「映画館では静かにするとか、走らないとかが当たり前だと思うんですけど、映画館でやってはいけないことを全部やりました。やっぱり、やってはいけないことをするのは楽しいなと思いました」と青木は言って、大きな肩をすぼめた。
青木マッチョの“一撃”に成宮「今のところ生きています」
撮影では、青木が成宮の首を絞め、花小刀で切りかかるなど、息をつかせぬ攻防が繰り広げられた。成宮は青木のパワーについて、「マッチョさんの一撃が本当に強くて、想像以上でした」と苦笑する。「もちろん当たりは調整してくださっています。今のところ一つもけがをせず、生きているので(笑)、この後もけがなく終えられたら。このシーンはクライマックスに向けて一気に盛り上がっていく重要な場面なので、大切に演じたいと思います」
青木も、自身の力の強さを改めて実感した様子。「成宮さんがおっしゃる通り、僕は力が強いです。筋トレをしていなければよかったなという申し訳ない気持ちもあります。ここからクライマックスに入っていくので、テンションが上がってさらに強くならないように気を付けたいです。でも、きちんと迫力は出せるように頑張ります」と独特の言い回しでアクションへの意気込みを語っていた。
城定監督は、成宮について「何をやらせても魅力的な俳優さん」と評価する。「前回の『死ぬほど愛して』とは、また全然違う役です。今回はコメディーともシリアスとも取れないラインを目指しました。そういう少しカオスな映画の中で、ちょっとずらした個性を出せたかなと思っています」さらに本作について、「アクションやサスペンス、怖い部分もあります。僕が思う娯楽の要素を詰め込みました」と説明。「深く考え過ぎずに楽しんでいただければと思います。とはいえ、これまであまり見たことのない表現やシーンもあると思うので、ぜひ楽しみにしてください」と自信をのぞかせた。
成宮も「大学生、警察、悪女、主婦、ヤクザ、おばあちゃんと、何でもありの1億円争奪戦です。予測不能なマネーサバイバルの行方がどうなるのか、ぜひ楽しみにしてください」と呼びかけていた。
映画館として最後の客を見送った後、映画のために扉を破られ、壁を壊され、客席に車を迎え入れた丸の内TOEI。長年にわたって数々の東映作品を上映してきた映画館は、その最後に、自らが新たな映画の一部となった。



