現代美術作家・大和美緒さん、難病を乗り越え「生きる喜び」分かち合う作品へ
現代美術作家・大和美緒さん、難病越え「生きる喜び」作品へ

現代美術作家の大和美緒さん(36)は、1色の絵の具で無数の点を描く独自の手法で、生命力を感じさせる作品を生み出している。血管が炎症を起こす命を脅かす難病を抱えながら、「生きていて良かったと思える作品を作りたい」と挑戦を続けている。

点描で表現する生命の存在

大和さんは、就職活動に失敗し生き方に悩んだ経験から、「人生で1色選べるならと、赤を選択。生命の存在を想像できる色です」と語る。小学6年で転校しクラスになじめなかったが、図工の授業で白ネギを黙々と描いていると、同級生の「めっちゃネギ!」という言葉で輪の中に入ることができ、絵を描くことが特別なことになった。

ファッションデザイナーを志し大学のファッション系学科に進学したが、学んでもデザイナーになれないと知り方向転換。彫刻家の名和晃平氏の作品に感激しアシスタントを務め、3年生で美術工芸学科に転科し大学院に進んだ。しかし「これが私の作品」と思えるものを作れず、就職活動の失敗も重なり、世の中のスピードについていけないと焦り生き方に悩んでいた。

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コケから生まれた「RED DOT」シリーズ

幼い頃に遊んでいた祖父のラン農園を訪ねた際、コケを形作る小さな緑の粒々が、日陰や湿度の高い場所など生きやすい方向に広がる様子が目に留まった。「コケのように時間をかければ、自分らしい人生を生きられるかもしれない」との気づきから、無数の点で描く「RED DOT」シリーズが生まれた。

アイシングクッキー用の絞り袋に油絵の具を入れ、一つずつ点を描く。構図はあらかじめ決めず変化を受け入れながら描くが、自然の流れに任せすぎてもコントロールしすぎてもいい作品はできないという。現在は約10人のスタッフと共同制作し、毎朝打ち合わせをしてから作業に入る。「それぞれの手の癖やものの見方、性格などが点の表情に表れ、それが一枚の絵になっていくのがすごく面白い」と話す。

難病と向き合い、見る人と分かち合う作品へ

33歳の時、大動脈などの血管に炎症が起きる希少難病・高安動脈炎と潰瘍性大腸炎と診断された。脳梗塞の痕が2か所見つかり、いずれ大動脈解離が起きてもおかしくない状態だった。ほぼ同時期に夫の母に肺がんが見つかり、約2年の闘病の末、昨年亡くなった。

「生きていることが当たり前ではないと身にしみて感じています」。これまで自分の居場所を求めて作品を作ってきたが、「生きる喜びや苦しみを、見る人と分かち合える作品を作りたい」と思うようになった。「美術は生きるために必要なもの。人の心に栄養を与えられるような作品を作っていきたい」と語る。

【取材後記】大和さんの作品は、複数の色で線が描かれているように見えるが、よく見ると同じ色の点の集まりであることに驚かされた。緻密な作業を積み重ねる人物像を想像して緊張して取材に向かったが、気さくで朗らかな人柄に心が和んだ。大和さんは難病や身近な人の死に直面しながらも、「周りにいてくださる方の影響で前向きに考えられるようになった」「こうなりたいと思える人たちに出会えたから目標にできた」と人の縁について繰り返し話していた。私もこれから出会う人との縁を大切にしたい。(読売新聞生活部 上田津希乃)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機との向き合い方を、読売新聞の同世代の女性記者がインタビューする企画。大和さんは1990年滋賀県生まれ。2015年に京都造形芸術大(現京都芸術大)大学院を修了し、25年に作品集「いのちのじかん The Time of Existence」を出版。京都府を拠点に活動し、9月にメキシコで個展を開催予定。

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