米国を拠点に活動する現代アーティスト、笹本晃(1980年生まれ)の特別展「ラボラトリー」が、国立国際美術館(大阪市北区)で開かれている。従来の絵画や彫刻とは異なり、展示空間全体に配置されたインスタレーションの中で繰り広げられる笹本自身のパフォーマンスが最大の見どころだ。
会場には、簞笥やゴミ収集箱、洗濯バサミ、バスタオル、そろばん、金属コードのマイク、天井から吊るされた鉄網などが並ぶ。一見脈絡のないガラクタに見えるが、綿密に配置され、パフォーマンスが始まるとすべてが意味を持ち始める。
パフォーマンスに込められた言葉と仕掛け
作品「E_O」(2011年初演)は「egowithoutgravity(重力のない自我)」。つなぎ姿の笹本が現れ、軽やかなステップでシャドーボクシングを始める。やがて失恋がきっかけでボクシングジムに通い始めたことが語られる。
《エニアグラム(性格タイプ)は世の中の人を9タイプに分ける。私はタイプ8、挑戦者だから調子が悪いと人を攻撃したくなる》《マイクタイソンのインタビューを見て、タイソンは初試合のときは逃げ出したかったようだ。彼がとても怖がっていたとは想像もつかない》。一定のテンポで紡がれる言葉は、笹本の日常の不安や葛藤の中で心のメモに残った言葉の数々だ。
会場にはパフォーマンスの映像や写真も展示される。「ドーン」という大きな音とともに、金属の棒を上下から引っ張る映像が流れ、やがて金属棒が破断する。金属棒を人間の精神的ストレスのメタファーと捉え、耐性について思いを巡らすことも可能だ。
ユーモアと哲学が交錯する世界
簞笥の引き出しに入り込もうとする作品では、逃げ場のないピンチの状態にある人間が、肩の力が抜け、意外な逃げ場があると感じさせる。
笹本は神奈川県生まれ。10代で単身渡英し、英語を話せないストレスからストリートパフォーマンスを始めたことが身体表現との出合いという。米国のウェズリアン大学でダンスや美術を学び、コロンビア大学大学院で芸術学修士を取得。現在はイェール大学芸術大学院彫刻専攻で教鞭をとる。横浜トリエンナーレ、光州ビエンナーレ、ヴェネチア・ビエンナーレなど多数の国際展に参加してきた。
パフォーマンスでは観客をすぐそばに招き入れ、同じ空間と時間を共有することでメッセージを受け取りやすくする。笹本の顔の眼鏡のように見えるものはレモンの輪切りだったり、ワイヤレスの時代に長い金属螺旋コードのマイクを使ったり、地面をはうように動き回ったりと、身体表現はユーモアにあふれる。その合間に語られる言葉には心理学、物理学、数学理論が巧みに織り込まれ、哲学的でもある。
現代社会を生き抜くための実験室
期間中、「WrongHappyHour(誤りハッピーアワー)」「YieldPoint(降伏点)」「SecretsofMyMother’sChild(母の娘の事実)」「E_O」の4作品のパフォーマンスが行われる。テーマは「老い」「家族」「対人関係」「ストレス」など、誰もが避けて通れないものばかりで、見る側の心にすっと入り込む。
タイトルの「ラボラトリー」は実験室を意味する。会場で作品と対峙すると、道は一つだけでないこと、既存の価値観が絶対でないこと、アナログで非効率であることの利点など、意外な気づきを感じる。気持ちが軽くなる視点の転換や、自身さえ気づかない「自分」を新たに発見するかもしれない。
笹本のパフォーマンスは10月30日、31日、11月1日に開催。展覧会は11月3日まで(月曜休館、9月21日、10月12日、11月2日は開館)。問い合わせは06・6447・4680。



