電子コミック市場5000億円超も「マンガ離れ」や「レコメンド疲れ」に危機感、3社が語る挑戦
電子コミック5000億円超でも危機感 3社が課題と展望

2025年の電子コミック市場は5273億円に達し、紙の出版物を大きく上回る規模に成長した。特にスマートフォン向けの縦読みフルカラー形式「ウェブトゥーン」が新たなスタンダードとして定着しつつある。しかし、急成長の裏では「若者のマンガ離れ」「作品の短命化」「レコメンドへの飽和感」といった課題も浮き彫りになっている。この現状と今後の展望について、電子コミック界を牽引するLINEマンガ、SORAJIMA、STUDIO ZOONの3社に話を聞いた。

5000億円市場の死角——フロントランナーが抱く危機感

日本のコミック市場において、電子コミックは紙の売上を大きく上回り、インフラとして定着している。特にウェブトゥーンは、フルカラー・縦スクロール形式で、かつては海外発のヒット作が主流だったが、現在は国内の主要プラットフォームや専門スタジオ、大手出版社、異業種が本格参入。グローバル配信やアニメ化・実写化を見据えた「巨大IPの源泉」として、エンタメ産業全体のゲームチェンジャーとなっている。

一方で、作品数の爆発的な増加は、読者の可処分時間を巡るショート動画やゲームとの激しい争奪戦を招いている。スマホ特有の消費スピードによる「作品の短命化」や、若年層の「マンガ離れ」への懸念、アルゴリズムによる「レコメンドへの飽和感」など、課題も見えてきた。

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「面白いマンガ」がフォーマットを超える

LINEマンガの宮腰五郎兵衛氏は「フォーマットとしての好き嫌いはあるが、読者は結局『面白いマンガ』に出会いたいだけ。面白い作品であれば縦でも横でも読まれる」と語る。

STUDIO ZOONの新路純也氏は「2022年頃は制作スタジオが乱立していたが、今は各社特徴が出ている。当初は韓国作品が中心だったが、日本国内での制作も活発になり、ジャンルもバトルやロマンスファンタジーの中でも多様な表現へ拡張している」と現状を分析する。

SORAJIMAの原田涼氏は「ウェブトゥーン作品のドラマ化やアニメ化、単行本展開が活発になり、一定の経済圏を形成し浸透・定着してきた」と評価する。

ヒット作の「必勝法」——作家性と流通設計の両立

原田氏は「編集部は作家性を尊重し、魅力を最大限に引き出すことを大事にしている。必勝法はなく、一人ひとりの個性に寄り添うことが役割。一方で、ビジネス管轄として安定した流通力や適切なプロモーションを提供し、良い作品が日の目を見ない状況を減らす環境作りに注力している」と語る。

新路氏は「なろう系のようなルールが定まったジャンルでも、設定が異常に深かったり主人公に一癖あったり、どこか一点を尖らせた作品が長く愛される印象がある」と指摘。

宮腰氏は「過去24〜25年のヒットジャンルの型を意識しつつ、さらに侵食・拡張するような作品が必要。縦読みはオールカラーでファンタジー作品などはゲームに近い美しさがあり、広告訴求力にも繋がっている」と述べる。

映像化を前提としたIP戦略

原田氏は「横読みも縦読みも同じマンガ。より大きな広がりを見据え、編集部が映像化を意識しながら作品作りを進めている。SORAJIMAのドラマ化作品やアニメ化作品も増えてきている」と説明。

新路氏は「当社の『推しの一途すぎる執着を、私はまだ知らない』も大きなプロジェクトが進行中。他の男性作品についてもアニメ関係者から『イメージが湧きやすい』と言われることが多い」と明かす。

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「マンガ離れ」への処方箋——カスタマージャーニーの設計

原田氏は「ショート動画やゲームとの奪い合いは激しいが、マンガが教育や文化として浸透している側面もある。大切なのはカスタマージャーニーを設計し、アニメやゲームから原作マンガに戻ってくる流れを意図的に作ること」と提案。

新路氏は「物語そのものが面白くなければ読者は離れる。マンガというフォーマットが持つ可能性は無限大。フォーマットの変化に対応しながら『めちゃくちゃ面白い物語』を作り続けることがマンガ離れを防ぐ唯一の道」と強調。

宮腰氏は「プラットフォームとして全世代にマンガの魅力を届けることが使命。制作スタジオや出版社と協力して挑戦し続けなければならない」と語る。

「レコメンド疲れ」への対策——意外な出会いを追求

宮腰氏は「その課題は強く認識しており、スピード感を持ってテストを繰り返している。マンガは多品種多ジャンル。分母が大きいからこそAIを活用し、精度の高い、それでいて『意外な出会い』があるレコメンドを追求できるはず」と述べる。

原田氏は「ジャンルが飽和しているというネガティブな感覚はあまりない。同じジャンルでも作家の個性で全く異なる作品になる。課題は作品を読者に届けることで、プラットフォームに頼るだけでなくSNSや動画を駆使して届ける努力が必要」と指摘。

新路氏は「全員が100%売れると思って作っている。似たジャンルが増える中で、SNSとの連携や新たな出会いの仕組み作りなど、戦い方は工夫次第でいくらでもある」と語る。

作品の「賞味期限」を延ばす流通設計

宮腰氏は「プラットフォームとして、一度の配信で終わらせず何度も読者とのタッチポイントを作る施策を考えている」と説明。

原田氏は「賞味期限を延ばす鍵は『一度きりで消費させない流通設計』。消費スピードに乗せて一気に届ける売り方もあれば、中長期で接点を作り続ける売り方もある。作品ごとに最適な届け方を設計し、良い作品が短命に終わらない環境を整えることが役割」と強調。

新路氏は「編集長を置かず、各編集者が大きな裁量権を持ち、全員がフィードバックし合う文化を大切にしている。ビジネスや編集の垣根を超えた多様性が、今の時代のスピード感に耐えうる作品を生む」と語る。

編集者・営業の役割変化——チームワークの重要性

宮腰氏は「かつての『数字を作るだけ』の営業から、作品の中身や展開まで伴走する形へと職種が劇的に変化している。スタッフのマインドセットも時代に合わせてアップデートしている」と述べる。

新路氏は「編集者一人でできることには限界がある。プラットフォーム、SNS、多様な読者層。営業と編集がチームワークを発揮し、専門性を掛け合わせることが重要」と指摘。

原田氏は「以前は役割ごとに責任が分かれがちだったが、出版社・流通・書店が三位一体でIPを育てるカルチャーを構築できている会社が強い」と語る。

作品を広める「必勝法」——熱狂と泥臭い努力

原田氏は「正解を探すのは難しい時代。SNS社会では一方的な広告だけでは届きにくく、インフルエンサーやUGCのような第三者の『熱狂』が伝わる仕組みが重要。まずは自分たちが作品を愛し、その熱量を届けるしかない」と語る。

新路氏は「一番大切なのは『読者に喜んでもらえるか』という本質を突き詰めること。作ったものをしっかり届けるためにプラットフォームや書店と密に連携し、一緒に勝ち筋を決める泥臭い努力が最も重要。当社はマーケティングやイベント、MDなどグループシナジーを生かして作品を広げたい」と述べる。

宮腰氏は「プラットフォーマーとスタジオは二人三脚のパートナー。これからも協力し合い、読者の心を動かす面白い作品を一つでも多く届けるために全力を尽くす」と締めくくった。