スロバキアの世界遺産村、オーバーツーリズムに悲鳴「動物園じゃない」
スロバキア世界遺産村、観光公害で抹消求める声

住民のプライバシー侵害が深刻化

国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されているスロバキア中部のヴルコリニェツ村では、年間約10万人の観光客が訪れる。ある伝統的な木造建築の家の門には「私有地につき立ち入り禁止」「撮影禁止」と書かれた看板が掲げられている。この家に住む年金生活者のアントン・サブチャさん(68)はAFPの取材に対し、看板を指さしながら「ここは動物園じゃない」と憤りをあらわにした。

ヴルコリニェツに定住する村人17人の中で最高齢のサブチャさんによると、観光客は毎日、「どこにでも入り込み、写真を撮り、家の中をのぞき込んでいる」という。サブチャさんら村人たちは、まるで映画のセットにいるエキストラであるかのように感じている。サブチャさんは、ヴルコリニェツの世界遺産登録を抹消してほしいと訴える。

年間10万人の観光客が押し寄せる現状

約45軒の木造建築物で構成されるヴルコリニェツには、公式推計によると年間約10万人の観光客が訪れる。観光客は、主に白、黄、茶色で塗られた家々の間を散策したり、周囲の山々でサイクリングやハイキングを楽しんだりしている。ユネスコは1993年にヴルコリニェツを世界文化遺産に登録した。隣国のハンガリーとチェコにも、同様の伝統的な木造建築物が保存されている二つの村が世界遺産に登録されている。

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観光客は、教会や鐘楼、穀物倉だけでなく、ユネスコ・センターを訪れることができる。同センターでは自然や歴史に関する小さな展示が行われているほか、1965年の映画『ドクトル・ジバゴ』など、この村で撮影された映画が上映されている。また、観光客向けに、民族衣装の縫製やジンジャーブレッドのデコレーションから、草刈りや干し草作りまで、伝統工芸の実演も行われている。収穫祭や伝統的な結婚式の再現イベントも催されている。

伝統の歪みと住民の不満

しかし、サブチャさんは、こうした習わしのいくつかは本来のヴルコリニェツの歴史には存在しなかったもので、他の習わしも今はもう行われていないと指摘。「彼らは、もはやここに存在しないものを見せている」と不満を漏らした。一方、ヴルコリニェツ自治会のヤン・オンドリク会長によると、大半の村人は世界遺産登録の抹消までは求めておらず、自分たちの苦情に対処してもらうことを望んでいる。オンドリク会長はAFPに対し、「村人たちは、自治体が村人よりも観光客を優先していると感じている」と語った。

ヴルコリニェツには、押し寄せる大勢の観光客に対応するために必要な、適切なアクセス道路も駐車場もなければ、公衆トイレさえ整備されていない。そのため、観光客の中には「誰かの家の庭で用を足してしまう」不届き者もいる。オンドリク会長の家にも、時折観光客が入り込んでくるという。

自治体の対応と住民の声

ヴルコリニェツを管轄するルジョムベロク市の文化・観光部門の責任者、ミロスラフ・パロベク氏(62)は、ヴルコリニェツが世界遺産に登録された当時の特質を失ってしまったという苦情を一蹴。パロベク氏は「ここは野外博物館ではない。生きている村(現在も生活が営まれている村)だ」と強調。世界遺産登録の抹消を求める計画はなく、ルジョムベロク市は村人の苦情に対処しようと努めていると述べた。また、オーバーツーリズム(観光公害)への補償金として、村人には年間400ユーロ(約7万4000円)が給付されていると付け加えた。

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ヴルコリニェツの人口は、過去150年間で300人以上減少した。しかし、オーバーツーリズムにもかかわらず、過去10年間に2世帯の家族がこの村に移住した。移住者の一人で請求業務の専門家のルツィア・フデコワさん(42)は、「(オーバーツーリズムは)大した問題ではなかった。私たち家族はこの田園風景、静寂、そして山々に魅了された」と語った。

今後の対策と観光客の視点

ルジョムベロク市は現在、教会などの建造物を修復し、公衆トイレを増設するなどの施設拡充を行うため、国際的な補助金の獲得を目指している。補助金は、村の外にパークアンドライド機能を持つ駐車場を建設し、車の流入を抑制するためにも使われる可能性がある。AFPの取材中にも、大型観光バスが2台、村に到着した。1台は小学生の団体で、もう1台はポーランドからの観光客の団体だった。

サブチャさんの家の向かいにある緑色の家に住むペテル・グリースさん(63)も、世界遺産登録の抹消に賛成している。グリースさんは、現在の村での生活はまるで「下水道」で暮らしているようなものだと語った。観光客の中からも、オーバーツーリズムを問題視する声が上がっている。ドイツから訪れた観光客のクリスティーナ・ツィアルホフシュテッターさん(52)は、自分の家や庭を他人が絶えず歩き回る姿を想像しながら、「(観光客の数が)あまりにも多すぎるため、過ごしにくいと感じる」と語った。