世界情勢の悪化が資材不足や物価高という形で青森ねぶた祭にも影響を及ぼす中、今年の祭りには「いつまでもねぶた祭を楽しめるように」と、ねぶた師たちが地元の歴史や神話を題材に平和への願いを込めた大型ねぶたが出陣している。
第6代ねぶた名人の北村隆さん(78)が制作した「に組・日本風力開発グループ」の大型ねぶたは、青森市に伝わる「一本松の決闘」の逸話を下敷きにしている。大坂夏の陣で敗れ、津軽地方の沖館村に落ち延びた豊臣家の家臣・浅利万太郎は、稲作に必要な水を巡って上流の安田村と争いになる。安田村を率いる田村源兵衛と一本松の下で一騎打ちとなった末、戦いに疲れた両者は和睦し、水を協力して管理し、分け合うことにしたとされる。
地元の歴史で平和を表現
戦いの舞台とされる青森市千富町の松の木の下には現在、逸話を紹介する木札があり、近くの用水路には「万太郎堰」の名が残る。北村さんは子どもの頃から近くに住んでおり、「全国誰もが知る有名な話ではなく、地元の歴史で平和を表現したい」と題材に選んだ。
構図を練るのに5年以上かけ、特に一本松の表現に力を入れた。枝には、多くのパーツで使う杉よりも細くて丈夫な竹を使い、枝が前面に突き出る迫力ある造形を作り上げた。幼い頃から親しんできた思い入れがあるテーマに、「身近な歴史を通じて、戦争を遠い場所の出来事としてではなく、自分事として考えてほしい」との思いを託した。
毘沙門天が邪鬼と対峙
野村昂史さん(51)は「プロクレアねぶた実行プロジェクト」の大型ねぶたで、北方の守護神とされる毘沙門天が人の心に潜む怒りや欲を体現する邪鬼から宝塔を取り戻す場面を描いた。
「戦いの神」として知られる毘沙門天と「平和」というテーマは一見、結びつかないようにもみえる。だが野村さんは今年、ねぶたの真ん中に睨みをきかせる毘沙門天を配置。鬼を力でねじ伏せるのではなく、静かに、一歩も引かずに対峙する様子を表した。
「力があるからといって相手を抑えつけるのではなく、ただ大切なものを守るという意志を表したかった。それが今の世の中には足りていないのでは」。作品を通し、野村さんは問いかけている。



