第83回ベネチア国際映画祭の授賞式が12日に行われ、ナチス占領下のデンマークで過去の人間関係を隠そうとする女性の姿を描いたデンマーク作品『Woman Unknown』(原題)が最高賞の金獅子賞に輝いた。同作はコンペティション部門で唯一、女性監督が単独で手掛けた長編映画だった。
女性監督の存在感が際立ったコンペ部門
メイ・エルトーキー監督の『Woman Unknown』は、これまで取り上げられることが少なかったテーマを取り上げたことや、同部門21作品のうち女性監督がほぼ皆無だったということを背景に大きな話題を集めていた。21作品のうち、女性監督が関わった作品は、イスラエルによるガザ攻撃を描いたドキュメンタリー作品『NAZA』(原題)を共同監督したイスラエルのラヘル・ショール氏と、エルトーキー監督の2人のみだった。
授賞式でエルトーキー監督は「『Woman Unknown』は、戦場であり、社会全体の問題として扱われてしまう女性の身体を描いた映画だ。同時に、不可視化され、見過ごされ、声を奪われてきた女性たちの物語でもある」と語った。
銀獅子賞は韓国のイ・チャンドン監督作品
銀獅子賞(審査委員大賞)は、韓国のイ・チャンドン監督による『もしもの愛』が受賞。切ない人間関係の考察劇である同作は今大会で最も高い評価を受けた作品の一つとなった。
監督賞は、ロシア出身のイリヤ・フルジャノフスキー監督が獲得した。受賞作『DAU. 退行』は、旧ソ連の核開発計画を支え苦悩した物理学者レフ・ランダウの生涯を描いた膨大で型破りな実験的映画プロジェクトだ。
20年前に制作が始まった同作は3時間を超える大作。2000人が携わった同作の撮影中、多くの出演者がフルスケールで再現されたソ連の秘密研究所内で何か月も役になりきって生活した。
監督は「誰もが完成を信じたわけではなかったが、私は常に信じていた」と語り、受賞を「自由のために凄惨な戦争を戦っているウクライナの人々」に捧げた。
男優賞と女優賞、そして審査員特別賞
男優賞は、ブラックコメディー映画『ワイルド・ホース・ナイン』のジョン・マルコヴィッチに贈られた。1973年にクーデターが起きる直前のチリ・イースター島で、同僚と休暇を過ごす、世をすねたベテランCIAエージェント役を演じた。米映画誌バラエティは、マルコヴィッチ氏が「賞レースの話題をさらっている」とし、米アカデミー賞で主演男優賞を初めて獲得する可能性があると予想している。
女優賞を受賞したのは『Woman Unknown』で長編映画デビューを果たしたデンマークのマチルド・アーセル。ナチス占領下のデンマークで、かつてナチス関係者と交際していた恥ずべき過去を必死に隠そうとする結婚間近の女性を演じた。アーセルはステージ上で涙ながらにトロフィーを抱き締め、「夢なら本当に覚めてほしくない」と喜びを語った。
アカデミー賞受賞経験を持つイスラエルのユヴァル・アブラハーム監督とショール監督によるドキュメンタリー『NAZA』は、優れた作品を称えて贈られる審査員特別賞を受賞した。プレミア上映会での25分間のスタンディングオベーションは、同映画祭史上で最長となり、一部の批評家から最高賞である金獅子賞の最有力候補と目されていた。
同作では、イスラエル軍や情報機関の内部告発者24人にインタビューを実施し、何万人もの市民を死亡させているガザ空爆で、人工知能(AI)を活用した目標選定システムがどのように運用されているかに迫った。アブラハーム氏は「取材に応じたイスラエル情報将校らは、この大量殺戮が偶発的なものではなく、パレスチナ人の人間性を完全に否定することに基づいた組織的・計画的な殺人行為や政策であると語っていた」とスピーチした。同作についてイスラエル軍は、映画内で匿名の証言が使用されているとして「告発者の身元が確認できない」と批判している。



