トム・クルーズ主演「DIGGER/ディガー」、イニャリトゥ監督が世界の実像を掘り下げる
トム・クルーズ主演「DIGGER/ディガー」、イニャリトゥ監督が世界の実像を掘る

アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督、トム・クルーズ主演の注目作「DIGGER/ディガー」(10月9日全国公開)は、世界の実像を掘り下げる意欲作だ。メディア用資料には、イニャリトゥ監督が「映画をご覧になるすべての方が、この物語がどのように展開していくのかを、ご自身で体験し、発見してくださることを願っています」と記している。

石油王の大富豪が世界滅亡の危機に直面

「DIGGER」は、英語で「掘る」を意味するDIGに由来する。イニャリトゥ監督は「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)でアカデミー賞4冠、「レヴェナント 蘇えりし者」(15年)で同3冠(レオナルド・ディカプリオ初のアカデミー主演男優賞を含む)に輝いた実績を持つ。

クルーズが演じるのは、アメリカの石油王一家に生まれた大富豪ディガー・ロックウェル。環境問題を顧みず掘り続けてきた男が、その果てに世界滅亡の危機に直面し、大統領の意向を受けて事態収拾に乗り出す。

「表トム」と「裏トム」の二面性が際立つ

ロックウェルは、緩んだ頬と体を金のかかったアメリカンな装い(ウエスタンハット、カウボーイブーツ)で包んだ老境の男だ。一見クルーズらしからぬ役どころだが、多様な作品に挑んできた俳優であり、パブリックイメージの扱いに長けている。

「ミッション:インポッシブル」シリーズのようなヒーロー役の一方で、「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」(08年)での俗物エグゼクティブ役など、裏返した役どころも演じてきた。「DIGGER」の主人公は、そんな二面性を持つクルーズならではの役で、「表トム」があるから「裏トム」が際立つ。特殊メイクはアカデミー賞常連のカズ・ヒロが手がけた。

物語の力と語り方の重要性

途中までは変身ぶりに引きつけられるが、ロックウェルや周囲のキャラクターは「ずっと見ていたい」と思わせる存在ではない。過去の名作(「博士の異常な愛情」など)を思わせる戯画的なシーンや「漫画みたいな演技」も鼻につく。

しかし、この映画は「そのまま」で終わらない。新たな展開を見せ、隠れていた物語構造が明らかになる。ロックウェルは、事実そのものよりも、その事実をめぐる物語をどう語るかの重要性を説き、情報遮断や文言操作で人心を操ろうとする。これは、物語には力があり、語り方の重要性を示すものだ。

この映画は、多くの人が見て見ぬふりをしたいと思っている人類の諸問題を、あえて物語にして咀嚼し直す。イニャリトゥにとって、俳優は良きシャベルなのかもしれない。「バードマン」のマイケル・キートンが演じた主人公と通じるものがあり、チャーリー・カウフマンの「脳内ニューヨーク」(08年)を想起させる。

豪華なスタッフと映画産業への影響

撮影はイニャリトゥの盟友エマニュエル・ルベツキ、ミニチュアセットはウェス・アンダーソン作品も手がけるジーモン・ヴァイセの工房が担当。たっぷりの予算をかけた映像は見るからに明らかで、興行成績次第では映画産業のサステナビリティーに影響を与えるかもしれない。

せちがらい今の世にあって、これだけ酔狂な映画をイニャリトゥとクルーズがタッグを組んで作りおおせたことは、痛快にも思える。

◇「DIGGER/ディガー」(原題:DIGGER)=上映時間:129分/配給:東和ピクチャーズ・東宝=10月9日全国公開