藤本タツキ、久野遥子の卒業制作に「打ちのめされた」 『ルックバック』劇中アニメの制作秘話
藤本タツキ、久野遥子の卒業制作に「打ちのめされた」『ルックバック』

公開中の映画『ルックバック』から、劇中アニメーションの場面写真4点が初公開された。あわせて、原作者の藤本タツキと、ロトスコープアニメーション監督を務めた久野遥子の対談も公開されている。

本作は、藤本の同名漫画を是枝裕和監督が実写映画化した作品。出口夏希と蒔田彩珠がダブル主演を務め、漫画を描くことに情熱を注いだ藤野と京本の13年間を描く。「第83回ベネチア国際映画祭」ではコンペティション部門に出品された。

ロトスコープ技法と手描きのこだわり

劇中の一部には、実写映像をもとに絵を描き起こす「ロトスコープ」の技法を採用。久野がアニメーション監督を務め、『化け猫あんずちゃん』などのシンエイ動画が制作を担当した。公開された場面写真には、海や空、車窓の向こうに広がる風景とともに、藤野と京本の姿が描かれている。実写の俳優と藤本の絵の中間を探り、水彩や色鉛筆の質感を生かして制作された。

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アニメーションパートについて、是枝監督は劇場パンフレットに収録された藤本との対談で「藤野が仕事場に戻ってペンを持つラストで、藤野が何を背負っていくのかを考えました。そこで『かつて2人でアニメ化の夢を語った記憶がよみがえり、京本の描いた絵が動き出し、自分の未来を立て直す』という前向きさを表現したいと思いました。絵から音が聞こえて、動き出し、2人が絵の中で躍動する…というイメージでした」と、その演出意図を明かしている。

藤本タツキの感動と久野遥子への衝撃

藤本は完成した映像について、「あのアニメーションパートだけ観ても感動しましたし、きっとご覧になる皆さんも泣いてしまうと思います。前後の文脈を知らなくても伝わる素晴らしい映像」と評した。

久野によると、当初はデジタル彩色によるアニメーションも検討されたが、是枝監督から水彩や色鉛筆のニュアンスを大切にしたいという提案があったという。「藤本さんらしいキャラの顔の要素、例えば涙袋の感じを色鉛筆で入れたりして、実写の役者さんと藤本さんの絵の中間点がないか探りました」

制作では、デジタルで描いた線画を紙に出力し、シンエイ動画のスタッフ約10人が色鉛筆で線を加え、絵の具で彩色した。久野は「動画1枚1枚をアナログで塗ることは普段はなかなかできない」としたうえで、短いパートに十分な作業期間が設けられ、「ぜいたくな時間の使い方ができました」と振り返った。

対談では、二人の意外な関係も明かされた。久野は、本作への参加が決まった際、藤本本人からXでメッセージを受け取ったという。「それはむしろ『ルックバック』みたいな体験でした。私から見て『ルックバック』は漫画家志望のエリートの物語で、自分とは異なる世界だと思っていました。それなのに突然、藤本さんからXのメッセージが来て、一瞬だけ自分が藤野のような気持ちになりました。京本と初めて会って火がついた時のような、ぜいたくな体験でした」

一方、藤本は、久野の卒業制作『Airy Me』に衝撃を受けた自身の過去を振り返り、「美大生にとって、久野さんの作品は全員が通る道だと思っています。卒業制作はどういうものを作るのか過去の作品を調べて、久野さんの卒業制作にたどり着いて、衝撃を受けて諦めるか、自分も頑張ろうとするのか…のどちらかで。僕も久野さんの卒業制作『Airy Me』に打ちのめされて、自分は漫画を描こうと決めました」と告白している。

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久野は、藤本作品の登場人物について、まっすぐな愛情とこどもならではの残酷さを併せ持つ「こども性」があると分析。「愛情がまっすぐでもどこか意地悪いというか、こどもならではの残酷さも両立している感じがします。そこはこどもだけが持つきらめきで、大人になったら辻褄を合わせていく部分です。藤本さんの作品を読んでいると、そういったこども性を感じます」と語った。

一方、藤本は「その人に何か足りなかったり、欠けていることって、別に直さなくてもいいと思っている」と語り、未完成な部分を残す自身の人物造形が「こども性」につながっているのかもしれないと応じた。

藤本と久野の対談全文は、映画の公式サイトで公開中。『ルックバック』は全国の映画館で上映されている。