神戸市出身の作家・高殿円さん(50)の新著『せどりの女王』(PHP研究所)は、社会に出るタイミングで阪神大震災と就職氷河期に見舞われた同世代への鎮魂歌のような小説だ。意欲があるのに才能を生かせずにいる全ての人への応援歌でもある。
震災と氷河期を経験した世代への思い
阪神間を舞台に百貨店外商部と顧客の特別な世界を描く『上流階級』や、『トッカン 特別国税徴収官』などの人気シリーズで知られる。元気が出る“お仕事小説”の名手が、人生の節目の年齢に差しかかり「神戸の一番苦しい、しんどかったことを、当事者として洗いざらい言語化しておきたかった」と語る。
ヒョウ柄の女社長が語る半生
持ち前のエンターテインメント精神は健在だ。ヒョウ柄がトレードマークの女社長が、自社の上場を前に失踪し、過激なライブ配信を始める。氷河期・震災・女子の“トリプル底辺”から、高級ブランドの中古品売買で年商50億円までにのし上がった半生を赤裸々に語り、自身を傷つけ搾取した者たちへの報復を誓う。教諭による体罰と性加害、病に倒れた父に代わって起業した母への嫌がらせ、阪神大震災で実家は二重ローン、自身も学資ローンを背負い、バブル経済崩壊後の未曽有の就職難の中、ようやく見つけた勤め先で派遣社員は使い捨てに――。有益な情報に高額報酬を提示、SNS上で騒動を引き起こした狙いは何か。
せどり業界に託したメッセージ
ゆとり世代、Z世代に比べ、氷河期世代の苦しさを代弁する小説は多くない。「本を読むような余裕がないからじゃないか。声も上げられず、見て見ぬふりをされてきた」。中古品を再生して販売するせどり業界を題材にしたのは「シャネル、エルメスなどの中古品でも手を入れることで新品より高値で取引される。人材も同じだと、私たちも手を入れて高く売ってほしいと、ブランド品に託して書かせてもらった」。
立場の弱い人にひずみを押しつけてきた男性中心の日本社会、格差社会を痛烈に批判し、働くことの意味を深く問う小説でもある。
「被災した神戸で、就職できない人間は本っ当に大変だった」。自身も大学時代に被災、過酷なアルバイト生活を余儀なくされた。各地で災害が相次ぐ中で「就学、就職をあきらめようとする人に、地元企業は意識を向けてほしい。神戸の二の舞いをやってほしくない」と言葉を強くした。(編集委員 西田朋子)



