東京二期会、37年ぶりにオペラ「運命の力」上演 ヴェルディ中期の傑作
東京二期会、37年ぶりに「運命の力」上演

東京二期会がヴェルディ中期の傑作、オペラ「運命の力」を上演する。ドイツのボン劇場、イギリスのウェールズ・ナショナル・オペラとの提携公演。演出にイギリスのサー・デヴィッド・パウントニー(78)を迎え、稽古が続けられている。さまざまな出来事が重なり、運命に翻弄されていく登場人物たちの非常にドラマチックな物語。二期会では初めて演出を手掛けるパウントニーは「悲劇、コメディー、戦争、宗教、大衆劇などシェークスピア劇を見るようないろいろな要素があるのが魅力です」と話す。

運命が転がった銃の暴発

「運命の力」は1862年、当時のロシアの首都サンクトペテルブルクのカーメンヌイ劇場で初演されている。原作は1835年、スペインで大評判となったドン・アンヘル・デ・サーベドラの戯曲「ドン・アルヴァロ、あるいは運命の力」。69年にミラノ・スカラ座で改訂版が上演され大成功を収めた。序曲は単独でオーケストラコンサートで演奏されるほど親しまれている。4幕まである物語の上演時間は3時間近い。

始まりは18世紀半ばのセビリア。カラトラーヴァ侯爵の娘レオノーラの恋人ドン・アルヴァーロはスペインに滅ぼされたインカの血を継いでいるゆえ、侯爵は結婚に反対している。駆け落ちを決心した2人は見つかるが、アルヴァーロは抵抗の意志がないことを証明するために侯爵の前に銃を投げ出す。しかし銃が暴発し、侯爵は命を落とす。この事故をきっかけに運命は転がっていく。

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「執着する物語」

レオノーラの兄ドン・カルロは父の復讐のため変装して2人を探し回る。逃亡する2人ははぐれてしまい、互いに死んだと思う。男装したレオノーラは修道院を訪ね、グァルディアーノ神父に男性修道士として隠棲させてほしいと頼み、許される。一方、アルヴァーロは名前を変えてスペイン軍に入隊。やはり名を変え同じ軍にいるカルロと知り合い、カルロの窮地を救ってやり、2人は義兄弟の誓いを立てる。しかしカルロは負傷したアルヴァーロの持ち物の中からレオノーラの肖像画を見つけ、敵であることを知ってしまう。

5年後、アルヴァーロも修道院に入り、ラファエッロ神父として過ごしているが、執念深いカルロに居場所を突き止められる。2人は再び決闘し、カルロは致命傷を負う。その場所はレオノーラが隠れる洞穴の近くだった。アルヴァーロはカルロの最後を見届けてもらうため声をかける。洞穴から出てきたのはレオノーラ。2人はつかの間の再会を喜ぶが、レオノーラは断末魔のカルロに刺されてしまう。

「このオペラは派手で極端な話であることは間違いないです。みな死んでしまうのですが、そういうオペラはたくさんあります。オペラはハッピーエンドであることはマストではありません。これは執着する物語です。レオノーラは父の死から逃れられず、カルロは復讐(ふくしゅう)することにとらわれ続けます」とパウントニーは話す。

舞台装置に巨大な壁

ダイナミックな演出で知られるパウントニーはケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで学んだ。ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場、日本の新国立劇場など世界各地で演出を手掛け、オーストリアのブレゲンツ音楽祭、ウェールズ・ナショナル・オペラの芸術監督などを務めた。2019年にナイトの称号を与えられた。

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「運命の力」と、13世紀、フランスに占領されたシチリア・パレルモの蜂起を描いた「シチリアの晩鐘」(1855年初演)、スウェーデンの啓蒙専制君主グスタフ3世が仮面舞踏会で暗殺された事件を題材にした「仮面舞踏会」(1859年初演)を3部作として演出しており、「運命の力」は2018年にウェールズ・ナショナル・オペラで初演された。3作とも舞台装置は共通で、パウントニーが「ヴェルディ・マシーン」と呼ぶ巨大な壁2面が使われる。具象的なスペインの館や教会は出てこない。「壁を移動させることによって、大きなスペースを作って壮大に見せたり、親密な空間を作ったりすることができます」という。

理性ではなく感情で出自が異なるから結婚を反対され、父親の復讐のために一生をかける。身を隠すために軍隊に入ったり、教会に逃げ込んだりする。この200年前の物語は現代でも共感を呼ぶのだろうか。パウントニーは「オペラを聴きにくる聴衆は物語が一番の目的ではないのです。プロットにこだわりません。お客さまは理性的に理解するのではなく、感情的に感じるのです。オペラは音楽、物語、演出、装置などの総合芸術です。お客さまは総合芸術を楽しみにくるのです」と話す。

二期会が「運命の力」を上演するのは1989年以来37年ぶり。レオノーラ、アルヴァーロ、カルロら優れた歌手がそろわないと、聴衆に聴かせるオペラはできない。今回はダブルキャストで4日間公演する。振り付けのマイケル・スペンスリーは「時間のない中でみんなしっかりやっています」と話した。

キャストはカラトラーヴァ侯爵/グァルディアーノ神父:山下浩司、後藤春馬、レオノーラ:大村博美、イ・スンジェ、ドン・カルロ:今井俊輔、小林啓倫、ドン・アルヴァーロ:樋口達哉、小原啓楼、プレツィオジッラ/クッラ:加藤のぞみ、花房英里子、他。指揮の八嶋恵利奈はドイツ生まれ。これが日本でのオペラデビューで、2025年、「魔笛」の指揮でメトロポリタン歌劇場にデビューした注目株。東京フィル。公演は9月3~6日、新国立劇場オペラパレス。