「スモーキングルーム」第305回。砂糖煮の娘が給仕に出かけ、ザックは屋根裏部屋で荷物をまとめている。そこへ煙が廊下に佇むと、ザックが「やっぱり、いた」とドアから顔をのぞかせた。
ザックは「これ」と言って掌大の石を煙に手渡す。煙が「晶洞石ですか」と尋ねると、ザックは「そう」と答え、中に煙水晶の鈍い煌めきが見えた。煙が「お預かりします」と微笑むと、ザックは首を振り、「これはあなたにあげるの。わたしが見つけた石を、ここで待つ理由にしないで」と言った。煙は表情を動かさず、「別れは常なのでもう慣れてしまいましたが、貴女がいなくなるのは寂しいですね」と静かに言う。ザックは再び「違う」と言い、「あなたは別れを知らない。だって、ここに居続ける限り、去った人が戻ってくる可能性にすがれるのだから」と語る。煙は黙ってザックを見つめた。ザックは「簡単なことよ。寂しいのなら、わたしに会いにきて」と言い、汚れたリュックを背負って裏口からホテルを出ていった。
その晩、煙は施錠と見回りを済ませると地下の遺失物の部屋に入る。狭い部屋を埋め尽くす遺失物を隅々まで眺め、手入れが必要なものを自分の部屋へ持ち込む日課をこなす。そこへ金ボタンがノックもなく入ってきて、木の腰掛けに座り「泥まみれの姫君は去ったのか」と呟く。返事がないのを見て「いいのか?」と煙を見た。しばらくして、煙が「彼女と僕は似ているような気がした。でも、違った」と言った。煙の手には黒っぽい石に覆われた煙水晶があり、濁っているのか澄んでいるのかわからない色合いで、今にも揺らめきそうな水晶だと金ボタンは思った。



