手のひらサイズの「ミニ本」がホラーやミステリーで人気、新読者獲得に期待
手のひらサイズの「ミニ本」がホラーやミステリーで人気

文庫本より一回りも二回りも小さいサイズやスマホの形をした単行本が、相次いで刊行されている。人気作家がホラーやミステリーを手がけ、安価で短時間で楽しめるため、新しい小説読者を増やす呼び水としても期待されている。

背筋さんの『口に関するアンケート』が火付け役に

先陣を切ったのは、2024年にホラー作家の背筋さんが手のひらに載るA6変型判(115×85ミリ・メートル)で刊行した『口に関するアンケート』(ポプラ社)。同社の末吉亜里沙・一般書文芸編集部長によると、話題性のある小さな本の出版を考えていた際、背筋さんからウェブ雑誌用に短編が届き、「この二つを掛け合わせたら」と始まったという。

墓場の肝試しに参加した大学生の証言集が不穏な雰囲気を漂わせ、46万部(電子版含む)のベストセラーに。今夏、映画化もされた。末吉さんは「通常サイズでない違和感も読者に面白がってもらえたし、初めて本を一冊読み切れたとの若年層の感想も寄せられた」という。同サイズ71ページで連作短編集を試みた背筋『目が』も、6月に出て19万5000部(同)に達した。

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白井智之さん、ミステリーでもミニ本に挑戦

さらに小さいA7判(105×74ミリ・メートル)で7月に出たのが、本格ミステリーの気鋭、白井智之さんの『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』(実業之日本社)。背筋さんの本のヒットをきっかけにミステリーでもミニ本が出来ないかと提案された白井さんは、「ミステリーの書き手が出す意味があるトリックを思いつき、執筆を決めた」という。速読をテーマに、少年が目撃した殺人事件の謎を本好きの刑事が解き明かす。

極小サイズもトリックとの関連で導き出されたが、本作りは「思っていたより大変だった」と担当編集者の加藤翔さん。印刷所や製本所と相談を重ね、A6判の紙に縦に2冊分印刷した後で製本、手作業で余白をカットする手間をかけて造本された。

分量は『口に関するアンケート』が原稿用紙約40枚分、『本を読むのが超速い人の頭の中ってどうなってんの殺人事件』は約60枚分。短編小説1本分で1冊の本になっている形だ。値段はそれぞれ605円、660円と文庫本と比べても安価で買いやすい。

白井さんは「ミステリーの世界では、袋とじを開くと短編が消える泡坂妻夫『生者と死者』など、これまでも普通でないフォーマットの作品が書かれてきた。トリックを思いついたらまた挑戦したい」と話す。

知念実希人さん、スマホサイズ小説で新表現

医療ミステリーなどで人気の知念実希人さんは、3冊のスマホサイズ小説を刊行している。昨年9月に普通サイズのホラー小説『閲覧厳禁』(双葉社)を刊行したが、その前日譚『スワイプ厳禁』(同)を前月に出したのが最初だ。

編集者との打ち合わせで、印刷所で作れる判型の中に大型のスマホとほぼ同サイズのB6変型判(165×85ミリ・メートル)のものを見つけ、「スマホに見立てて小説を書いたら新しい表現が出来るのでは」とひらめいたという。「普通の人の生活にスマホが入り込んでいる中、普段本を読まない人にも興味を持ってもらえる」との狙いもある。

左ページに文章、右ページにスマホ画面のイラストを配置し、「ドウメキの街」という都市伝説を巡り、チャット画面などを通してストーリーが進む。画面の案も筆者が考えるが、「どのアプリを使うかなどスマホの機能を軸にストーリーを考えるなどの大変さもある」という。

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今月刊の『このスマホで地下牢獄から脱出してください』(実業之日本社)では、スマホを手にした大学生が、命をかけた脱出ゲームを迫られる。ゲームのタイムリミットが電池切れであるほか、照明や方位磁石アプリ、QRコードなど、スマホの機能も巧みに生かした。「小さいサイズの本は短時間で読め、非日常感を味わえるのも魅力的。文字で表現を追求する文芸の変化球として、新しいアイデアも探ってゆきたい」と話している。