紺碧のアビタシオン第24回、美貴子が見たお茶の間と台所の現実
紺碧のアビタシオン第24回、美貴子が見たお茶の間と台所

この家では美貴子がどうしても見ておきたかったお茶の間も見せてもらった。それは美貴子が想像していたより、ずっと狭く、暗い部屋だった。大連の使用人たちの部屋よりももっと狭く、これもまた見ておきたかった丸い卓袱台の存在感だけが大きい。

お茶の間の記憶と現実

「あたたかくてね、みんなで集まって」と目をうるませながら、お茶の間のことを語っていた母の姿が浮かぶが、ここはそんなにいい部屋だろうか。夕暮れになり、雨戸を閉めると、家のなかはいっそう暗くなり、閉塞感がつのった。カーテンさえ開ければ、すぐに夜の町が眺められる大連の家が懐かしい。

台所で生まれた大きな疑問

もうひとつ、美貴子が気になっていた場所があった。キッチン、台所だ。「お勝手を見ていただくなんて」と家主の妻は恥ずかしそうに俯いた。それでも無理を言って見せてもらった。床は土間、かまど、流しが並んだ薄暗い場所だった。流しは木製で、水がじとじととにじんでいる。水は井戸から汲むのだと言う。やはり、どうしても、ガス、水道完備、あたたかい大連のキッチンが目に浮かんでしまう。この家だって綺麗に整えられてはいたから、汚いとは決して思わなかったが、それでもどうしても比べてしまう。暗い北向きの、お勝手、と呼ばれる場所。自分ならここで料理をしたいと思うだろうか。一日の大半を、女性たちはここで過ごす。その生活は快適と言えるだろうか。なぜ女性たちは、この場所にいることに反旗を翻さないのだろうか。大きな疑問が、このとき、美貴子の心のなかに生まれたのだった。

夜の語らいと帰還への思い

その夜、いつもと同じように、班の皆と布団を並べて、今日見てきたものを語りあった。消灯時間はとうに過ぎていて、暗闇のなかに皆のひそひそ声が響く。「やっぱり……」一人の女生徒が口を開いた。「私は大連の家が好き」「私も」「私も」と声が上がる。美貴子もその声に続いた。あと一週間もすれば、長い旅も終わり、大連の町に帰ることができる。「私は大連の町でお嫁にいきたい」一人が言うと、また、「私も」という声が上がった。