近年、アニメやホラー作品の設定を深く読み解き、未知の文化や怪異を考察するエンターテインメントとして、民俗学が密かなブームとなっている。専門家に限らず、誰もが謎解きを楽しめる点が魅力だ。
『民間伝承論』が示した「誰でもできる学問」の原点
この開かれた親しみやすさは、決して偶然の産物ではない。日本民俗学の父・柳田国男が一九三四年に刊行した『民間伝承論』こそ、市井の人々に向けた「当事者参加型学問」のマニフェストであった。柳田は、伝承を、旅人でもわかる「目に見えるもの」、一時滞在者にも把握可能な「耳で聞こえるもの」、そして住人でなければ理解できない「心意現象」の三つに分類した。
有形文化や言語表現の先にある、人々の繊細な感覚や信仰は外部の人間にはわからない。だからこそ、住民自身が調べ、考える必要があると説いたのだ。
「世界民俗学」の構想と欧米中心主義への批判
さらに画期的なのは「世界民俗学」の構想だ。当時の人類学などでは、欧米がそれ以外の地域を一方的に「見る」という構造が当たり前で、日本は「見られる」側に過ぎなかった。これに対し民俗学は、自らを「見つめる」内省の学問である。
住民自身が郷土を見つめ直し、各地で形成された民俗学が、地域や国を超えて対等に「見つめあう」。この水平な発信と対話を通じて初めて、人類の文化が理解できると柳田は考えた。欧米中心の覇権主義を批判したのである。
文庫単独化の実現を切望
「ハレとケ」をはじめとする重要概念の原点でもある本書だが、三十年以上前に文庫版全集の一部に収められたことはあったものの、単独での文庫化はなされずにきた。広がりを見せる民俗学という大河の「水源」を誰もが手軽に手に取れるよう、今こそ文庫での復刊を切望する。(島村恭則)=寄稿=



