『盗まれた誇り』『悲嘆の脳科学』『「蒲団」の時代』書評まとめ
『盗まれた誇り』『悲嘆の脳科学』『「蒲団」の時代』書評

東洋経済オンラインの書評班が、今週注目の3冊を紹介する。『盗まれた誇り 喪失と恥と右派の躍進』、『悲嘆の脳科学 最愛の人を失ったとき脳では何が起きているのか』、『「蒲団」の時代 自然主義とは何だったのか』の各書を、それぞれの専門家が読み解く。

『盗まれた誇り』——トランプ支持層の深層心理

社会学者A・R・ホックシールドの著書『盗まれた誇り 喪失と恥と右派の躍進』(布施由紀子訳)は、なぜトランプ米大統領が支持されるのかという問いに、感情の視点から迫る。著者は7年に及ぶ現地調査で、支持層の心理を「誇り」と「恥」を軸に分析した。

調査対象はケンタッキー州東部アパラチア地方の下院選挙区。白人比率97%と全米で最も高く、全米2番目に保守的で2番目に貧しい地域だ。J・D・ヴァンス副大統領が幼少期を過ごし、自伝『ヒルビリー・エレジー』で描いた場所でもある。

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この選挙区はかつて炭鉱で栄えたが、今は衰退したラストベルト。ギャラップの「幸福度指数」では全米最下位で、生活満足度、労働環境、心の健康、身体の健康、健康的行動、医療アクセスのすべてが最低評価だった。

本書が強調するのは、物的経済と連動する「プライド経済」だ。物的欠乏は生活の貧しさだけでなく、その貧しさを恥と認識させる。これが「誇り」の問題を引き起こすと著者は指摘する。トランプは「喪失」を「盗まれた」という被害者意識に転換し、支持層の感情に訴えかけた。

評者の会田弘継(ジャーナリスト)は、この問題は日本社会にも無縁ではないと述べている。

『悲嘆の脳科学』——死別が脳に与える影響

『悲嘆の脳科学 最愛の人を失ったとき脳では何が起きているのか』は、死別によって脳がどのように変化するかを脳科学の観点から解説する。著者は、脳は「愛する人がいる世界」を学習し、死別によって「不在」を学習し直す必要があると説く。

本書は、悲嘆が単なる感情ではなく、脳の神経回路の再編成を伴うプロセスであることを明らかにする。具体的な研究事例を交えながら、悲しみのメカニズムとその対処法を提示する。

『「蒲団」の時代』——自然主義文学の再評価

田山花袋の『蒲団』を再評価する『「蒲団」の時代 自然主義とは何だったのか』は、自然主義文学への定説を覆す一冊。従来、自然主義は私小説の源流とされてきたが、本書はその解釈に疑問を投げかけ、新たな視点から『蒲団』の時代背景と文学的意義を探る。

著者は、『蒲団』が発表された明治時代の社会状況や読者層を分析し、自然主義が当時の文学界に与えた衝撃とその後の影響を考察する。従来の評価を覆すことで、日本近代文学の理解を深める内容となっている。

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