社会学者・伊藤昌亮氏の著書『曖昧な弱者の時代』(岩波新書・1012円)が刊行された。書評家・西野智紀氏が、現代日本社会の分断の構図を鋭く分析した本書を評する。
「曖昧な弱者」と「明白な弱者」の対立構造
本書では、インフルエンサー「ひろゆき」人気、東京都知事選挙における石丸現象、財務省解体デモ、参政党躍進など、コロナ禍以降にマスコミやネットを賑わせたトピックが目次にずらりと並ぶ。著者はこれらの社会状況と政治状況に、「曖昧な弱者」が「明白な弱者」とリベラル派に抱く敵意の噴出があると分析する。
著者の定義によれば、「明白な弱者」とは経済的弱者と文化的弱者を指す。経済的弱者には低所得者、失業者、子育て世代、難病患者などが該当し、文化的弱者には女性、子供、高齢者、障害者、被差別部落民、LGBTQなどが該当する。対して「曖昧な弱者」とは、中間層やマジョリティーといった強者側に属しながら、それぞれの弱さを訴え、自分たちにも守られる権利があると主張する人々を指す。
リベラル派とオールドメディアへの敵意
これまでリベラル派ならびにオールドメディアは、「明白な弱者」を守るためのキャンペーンを長く展開してきた。だが、そこから抜け落ちた「曖昧な弱者」は、マイノリティーのみならず、大きな発言力を有しながらその強者性を隠すリベラル派を敵視し、左右のイデオロギーに結びついた分断と文化戦争に発展。SNSを主戦場に、冒頭で述べたような政治的トピックにおいて日々膨大な量の諍いを目にするようになった。
しかしながら、著者は「曖昧な弱者」に批判的ではあるものの、膨れ上がる反感に無頓着だったリベラル派の問題点も指摘し、二者択一とはせず両者とも包摂していく出口を探すべきと提案する。そもそも属性にも経済力にもイデオロギーにもグラデーションがあるので、曖昧なポリティクスを否定しても何も始まらないだろう。
SNS時代に求められるリテラシー
マスメディアのみが世論形成を独占したかつてと違い、SNSで多様な意見を見聞・表明できる今、個々人のリテラシー能力がより試される時代となっている。本書は、2000年代とも2010年代とも違うパラダイムシフトが起きている、今現在の日本社会を鋭く論じた一冊である。



