「ここはこどものいない国」武田綾乃、人工出産の未来描く 育児のひずみに着想
「ここはこどものいない国」武田綾乃、人工出産の未来描く

作家の武田綾乃さん(33)が新作『ここはこどものいない国』(講談社)を刊行した。人がほとんど出産しない未来の世界を舞台に、子育てを巡る現代の問題を浮かび上がらせている。

妊娠・出産を機に着想

自身の妊娠、出産を機に、改めて子どもについて考えたという武田さん。出産や育児で不利益を受ける人に「自己責任だ」となじる声がある一方、それを単に悪意から生じたものと断じるのも違うように思えた。「じゃあ本当に産むことが自己責任の社会にしてみよう」。そうして小説のアイデアが芽生えた。

作品の舞台は2226年。人間のほとんどは工場内で人工的に“出産”されている。街中にいるのは愛玩動物としての人造の赤ん坊「ペットベイビー」だけで、あえて出産を選ぶ人やその子どもは「自然派」として異端視されていた。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

現代のひずみを未来に投影

自然派の家族出身という秘密を抱えた主人公・美奈子は、出産を決意した工場育ちの女性・伊藤と出会う。妊娠に伴う不調を想定していない職場、赤子の泣き声に顔をしかめる人。現代のひずみが、未来の世界だからこそより際立つ。「子ども連れに対する人の思いも10年後は変わっていると思う。現在の感情を書き残しておきたかった」と武田さんは語る。

吉川英治文学新人賞に輝いた『愛されなくても別に』などで捉えた女性同士の絆や、母と娘の緊張関係も改めて見つめた。美奈子は、伊藤との交流を経て、自然派の母に抱えたわだかまりと向き合う。「これまでだったら、登場人物が受けた過去の傷を強調していたと思う。でも、年を重ねて、より先に進んだ気がします」。単純な和解はないが、美奈子が踏み出す一歩は力強い。

青春小説との両立

今回は重いテーマを掘り下げたが、吹奏楽にかける高校生が織りなす『響け!ユーフォニアム』を始め、青春小説にも取り組んできた武田さん。「飽き性なんです。甘いもの食べたら、しょっぱいもの食べたくなるみたいな。交互に書きたくなる」と笑う。

京都・宇治で生まれ育ち、愛読したのは綿矢りささんや辻村深月さんら「刺さる人にすごく刺さる」作家だった。「誰かにとって思い入れのある作品になれば」。深く深く突き刺さる小説をいつも目指している。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ