神奈川県藤沢市の画家、山内若菜さん(49)が、丸木位里・俊夫妻の「原爆の図」との出会いを原点に、「戦争と希望」をテーマとした創作を続けている。今年、新作を埼玉県内でも披露し、各地で行う子供や学生向けの授業では平和や命の大切さを訴えている。
新作「裂光の刻 叫び」を展示
埼玉県草加市のカフェギャラリーで7月下旬から今月2日まで展示された幅4.5メートルの絵画作品には、多くの人々が目を奪われていた。山内さんの新作「裂光の刻 叫び」だ。原爆被害を象徴するような赤い光が絵の上部を走り、白く光る道が奥へと続く。鳥や花も描かれている。
「ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下や沖縄戦、日中戦争で死んだ人とともに、犠牲になった動物や昆虫、生きている命も描きました」と山内さんは説明した。
東日本大震災の原発事故を描き直し
この絵は、2011年の東日本大震災の原発事故で放射線を浴びた牛馬を描いた10年前の作品を描き直したものだ。「暗いトーンの絵だったが、生きる希望を感じられるよう明るい絵に変えた」と語る。展示では、見ていた年配の女性が涙ぐみ、虫を見つけて目を輝かせる子供もいた。
「原爆の図」との出会い
山内さんは武蔵野美大短期大学部を出た後、働きながら画家を目指した。20歳代の頃、東松山市の丸木美術館で原爆の図を目にし、心を揺さぶられた。原爆の図は、広島の爆心地近くに位里の実家があった夫妻が原爆投下直後に駆けつけ、被爆した人々や焼け野原を描いたスケッチをもとにした連作だ。
「悲劇的な出来事を懸命に表現したことに衝撃を受けた」。燃えさかる赤い火、人々の傷から流れる赤い血が目に焼き付いた。
創作活動と授業
山内さんは2016年、同館で個展を開き、「裂光の刻」の元になった作品などを披露した。会期中は、閉館後に原爆の図の前に座り、模写したという。2019年からは創作活動に専念し、原爆ドームや日本人が抑留された旧ソ連・シベリアなど戦争の記憶が刻まれた現場で取材を深めてきた。
同館で2021年に開いた企画展では、長崎で被爆した女性をモチーフにした作品を出品。2024~25年には、ビキニ環礁の水爆実験(1954年)で被害に遭った漁船を保存する東京都立第五福竜丸展示館(江東区)でも作品を飾った。
丸木美術館での個展で出会った中学教諭の依頼で、「命の大切さ」を訴える授業を始めた。開催回数は全国の小中学校や大学で計30回を数え、次世代を担う約5000人に作品に込めた思いを伝えてきた。
「戦争の歴史を学びながら、希望を描き、平和への橋渡しをしたい」と力を込めた。



