かつて多くの男の子を夢中にさせたプラモデルが、再び多くの人々に親しまれる趣味になりつつある。日本玩具協会の調べでは、プラモデルやフィギュアなどホビー部門の市場規模は、コロナ禍前の2019年度には約1380億円だったのが、25年度には約1960億円と4割増。模型メーカー「マックスファクトリー」「ウェーブ」の社長で、10代の頃から模型の世界で活躍してきた業界の有名人・MAX渡辺さん(64)に「かつてのプラモ少年たちへの模型づくり再開のススメ」を語ってもらった。
「今やらないで、いつやるの?」と思える豊かな時代
「今やらないで、いつやるの?」と言いたくなるくらい、今の模型の世界は豊かです。キットも工具も塗料も、何から何までそろった「理想郷」。まさに「芳醇(ほうじゅん)の時」なんです。
昔は「これがしたいけど、できない。どうしよう」と工夫したり、使える道具を探したりしていました。今は模型づくり専用の工具がそろい、やり方がわからなければネットで調べられる。作るための環境がすっかり変わりました。
色を塗るのも、ずいぶん手軽になりました。水性塗料の性能がよくなったうえ、最近はマーカーがすごい。キャップを開けたらすぐ塗れて、筆すらいらない。かなりのところまで仕上げられるんです。色分けされた部品を、接着剤を使わずにはめ込めるキットもあります。接着剤や塗料のシンナー臭に悩まされず、手軽に安全に模型づくりを楽しめる時代になりました。
製品の種類も技術も進化、金型コスト低下で新製品も
キットが精密でよくできていても、作るのが難しければ楽しめる人は限られてしまう。部品をニッパーで切り離してパチンパチンと組んで「ああ、できた」と喜べる人たちも含めて、楽しんでもらいたいですね。
製品の種類も、昔とは比べものになりません。「さすがにこれはないだろう」と思っていたものまである。久しぶりに模型店に行ったら、きっと驚くと思います。
背景には技術の進歩があります。アニメのキャラクターなど、実物のないものを立体にする技術が育った。原型をスキャンしてコンピューターに取り込み、細部を作り込んだデータから金型を作れるようにもなりました。金型のコストが下がり、以前は出せなかったような製品も出せるんです。
マックスファクトリーでも、かつてレジン(樹脂)やソフトビニール製の「ガレージキット」として売っていたものを、現在はプラモデル化しています。買ってくれる人が増えれば、時間とお金をかけた製品を比較的安く提供できる。「この値段なら懐かしいな」と手に取ってくれる人もいます。
コロナ下の巣ごもりとSNSが「出戻り」を後押し
コロナ下の巣ごもりは、「出戻り」の大きなきっかけでした。コロナ下で戻ってきた人たちが「やってみたら楽しかった」と、その後も残ってくれている。新規にこの世界に入ってくる人も増え続けていると実感しています。
SNSの力も大きいですね。ちょっと塗ったものを写真に撮って「今、こんなことをやっている」と載せると、世界中から「いいね」をもらえる。昔は模型クラブにでも入らないと、なかなか仲間に出会えませんでした。作る楽しさをこんなに気軽に共有できるのは、模型にとって福音だと思います。
僕自身、Xで見せたものへの反応から「この塗り方に、そんなに興味があったのか」と気づくことがあります。メーカーとしても、共感してくれる人たちの代表として製品を作り、みんなで楽しもうという感覚です。大きなサークル活動のようなものですね。
「模型の世界をおもしろくする」新シリーズへの挑戦
僕はもともと模型雑誌のライターで、それを続けたくてメーカーを始めました。模型の世界にいたかったんです。今も、ただ良くできたもの、売れそうなものを作るだけでなく、「あいつら、ちょっとおかしいよね」と驚かれるような製品を時々出したい。模型の世界をおもしろくする役割があると、勝手に思っています。
新しく始めた「Rider's portrait(ライダーズポートレート)」は、20分の1スケールのバイクと人物のフィギュアを組み合わせるシリーズです。顔を筆で塗れるくらいの大きさがあり、自分で地面を作れば一つのジオラマになる。タミヤの「ミリタリーミニチュア」が軍用車両と兵士を組み合わせる文化を育てたように、人とバイクの情景を一つのジャンルに育てたいんです。
模型趣味にはメリハリがあります。一人でこつこつ作ってもいいし、展示会で仲間と話してもいい。今なら遠くの人とも、ネットで顔を見ながら一緒に作れます。もっとうまくなりたければ、気に入った作品の作者に作り方を聞くこともできる。一人で楽しむ時間も、仲間と楽しむ時間も持てる。それが今の模型趣味のよさだと思います。