紺碧のアビタシオン第21回:美貴子、内地の「お茶の間」への探求心を募らせる
紺碧のアビタシオン第21回:美貴子、お茶の間への探求心

高等女学校三年生の美貴子は、「母国見学旅行」と称した長期の修学旅行を控え、内地の「お茶の間」というものに強い興味を抱いていた。生まれたときから「外地の子ども」として育った美貴子にとって、「お茶の間」は未知の空間だった。

「お茶の間」への疑問

母に「みんなが集まってね、食事や団らんをする部屋のことを言うんですよ」と説明されても、美貴子は「ダイニングルームみたいなもの?」と尋ねる。母は「いいえ、畳敷きなの。あたたかくてね、みんなで集まって……」と答えるが、美貴子にはイメージが湧かない。

「そこまで広くはないの。とても小さな部屋よ」という母の言葉に、美貴子は「そこに家族が集まるの? その小さな部屋に?」と問いかける。母は「だからいいのよ。卓袱台を囲んでね。みんなの温もりを感じられて」と語るが、美貴子は卓袱台すら見たことがなかった。

下調べで浮かんだ言葉

授業での班ごとの下調べ中、「内地にはお茶の間、というものがあるらしい」と誰かが声を上げたが、班の誰もがその正体を知らなかった。美貴子は母にも父にも先生にも尋ねたが、答えは同じようなものだった。担任の女性の先生は目の端に涙を溜め、母と同じようにどこか遠くを見つめる視線になる。

内地で育った人の心をくすぐる「お茶の間」への探究心が、美貴子の中でむくむくと育っていった。内地に行ったら必ず確かめてやろうと、美貴子は一人心に決めた。

旅立ちの日

修学旅行の日がやってきた。大連港は見送りの人でごった返し、波止場には女生徒たちを見送る家族たちがいた。色とりどりの紙テープが、旅に出る人と見送る人をつないでいる。

「美貴子お姉様!」という富美子の声が聞こえた気がして、美貴子がそちらに目をやると、富美子が真っ赤な泣き顔で大きく手を振っていた。その隣には、ぎゅっと口を結んだ母が立っていた。