木ノ下裕一さん、時代超える歌舞伎で劇場を開く場に まつもと市民芸術館芸術監督
木ノ下裕一さん、時代超える歌舞伎で劇場を開く場に

古典演目を現代の舞台作品として仕立てる「木ノ下歌舞伎」を主宰する木ノ下裕一さん(41)は、2024年にまつもと市民芸術館の芸術監督団団長に就任した。誰もが足を運びやすい劇場のあり方を模索している。

古典との出会いと活動の原点

木ノ下さんが古典と出会ったのは小学3年の時。地元・和歌山市の公民館で鑑賞した落語「蛇含草」で、落語家が餅を焼いて食べる場面に見入ったという。「テレビゲームや漫画など視覚的な表現ではなく、聴覚と観客の想像力で作り上げる世界が新鮮だった」と振り返る。

その後、小学校では落語、中学は歌舞伎、高校は文楽、大学は能狂言と、時代を遡りながら古典の世界に浸る日々を送った。大学時代には「同じ古典でも、シェークスピア作品は現代的な解釈を交えながら新しい表現方法が模索され続けている。日本の古典でも同じことができないか」と考え、木ノ下歌舞伎を旗揚げした。

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現代に問いかける古典のテーマ

木ノ下歌舞伎が目を向けるのは、古典作品が現代の私たちにも問いかけるテーマだ。忠義を描いたとされる「勧進帳」では、国と国、主君と従者、敵と味方などの間にある「境界線」を超えるか否かというせめぎ合いに焦点を当てた。「忠義は現代人にとってリアリティーが薄い。でも、難民や分断といった問題を抱える現代において境界線は身近なテーマだと考えた」と話す。

歌舞伎が持つ文化も大切にしている。歌舞伎では、奈良時代の物語に江戸時代の格好をした人が登場するなど、異なる時代が入り交じる演出がみられる。木ノ下歌舞伎でもセリフを現代語訳したり、衣装を洋服にしたりして「演目の初演当時の興奮と感触を現代にスライドさせようと試みている」という。

劇場を人が集う場に

芸術監督を務めるきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だった。演劇に対する風当たりの厳しさを感じ、「劇場に足を運んでくれる観客にしか目を向けてこなかった」と反省したことが、重責を引き受ける理由の一つになった。

就任から2年。芸術監督の仕事は、自らの知名度を生かした集客や文化芸術に親しむ企画の立案、市と連携したまちづくりの推進など多岐にわたる。その中で最も重視するのが、劇場を人が集う場にすることだ。

7月に同館で上演された木ノ下歌舞伎「心中天の網島 アクセシビリティ版」では、舞台手話通訳や字幕、音声によるガイドなど、視聴覚に障害のある観客を支援する演出を組み込んだ。読書会など演劇鑑賞以外の目的で、市民らが劇場に集まれる企画も計画中だという。

「劇場には居場所がないと感じていた人にも、ありったけの知恵を絞って寄り添いたい」。劇場にできることを、これからも問い続ける。

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