コンタクトセンター業界は今、人手不足と品質向上の狭間で、人依存の業務の高度化が限界を迎えつつある。そうした中、AIを活用した変革が進んでいる。2026年8月26日に開催された「コンタクトセンター マッシュアップ ボックス 2026」の講演から、AIと人が築く次世代の顧客体験の姿を紹介する。
コムデザイン、クラウド型CTIの導入実績3万4000シート超え
コムデザインのセッションでは、同社が描く未来の姿が示された。同社のクラウド型CTI「CT-e1/SaaS」は、累計導入実績3万4000シート、1950テナント(2026年3月時点)を超え、その規模を順調に拡大させている。プロダクト開発も積極的で、ソフトフォン不要の次世代Webアプリ「NEXIVO」や管理者向けの運用画面を刷新した「Management Console 2」の提供、オンプレミス型PBXを使いながらAIとの連携を可能にする「MASHUP BUS」の更新など、続々と進化している。
同社が本イベントで真に伝えたかったのは、次の時代を見据えたアイデンティティーの再定義だ。同社の執行役員は2つの大型プロジェクトを公表した。一つは9年ぶりとなるブランドの再定義で、企業ロゴを更新する。「私たちは今、成長できるチャンスを頂いています。グローバルブランドと肩を並べる存在になる。その姿を示すことがプロジェクトの目的です」とコムデザイン 執行役員(セールス+マーケティンググループ 執行役員)は語る。
もう一つのプロジェクトは、独自の強みはそのままに、世界水準のサービスを目指す戦略だ。東京電気グループと共同で、レガシーなCTIシステムを使用する企業が安心して移行できる「国産ブランドの受け皿」になるための準備を進めている。
同社は、CT-e1/SaaSが保有する通話データを、AIアプリケーションと安全に接続できる規格に整備する構想を発表。これによって、企業が導入する多様なAIとのシームレスな自動連携を実現させる。同社が培ってきた、エンジニアと顧客が直接対話するFAE(フィールドアプリケーションエンジニア)体制がAI時代の最大の強みになると総括した。
人とAIエージェントが共存、フロントはAI、人は後方支援
続いて登壇したのは、セールスフォース・ジャパンの三木総裁代行だ。三木氏は「人口が減少している今、LTV(顧客生涯価値)の最大化こそがすべての企業に共通するテーマです」と指摘し、その手段としてAIが果たす役割の大きさを強調した。
AIに関する消費者の期待値は高まっており、企業が問われているのは「AIを使うか否か」ではなく「いつ、どのスコープで、誰と組んでAIを使うか」であると強調する。同社が示す未来のコンタクトセンターの姿は、フロント対応をAIエージェントが担い、オペレーターは承認や二次対応などに回るというもの。これを支えるのが、自らタスクを判断して行動するAIエージェントプラットフォーム「Agentforce Service」だ。プロンプトで役割を与え、できるアクションを人が管理して信頼性を担保する。
デモンストレーションでは、AIエージェントの役割やアクションを制限したワークフローの設定が数分で構築される様子が示された。AIエージェントの思考プロセスが全て表示される機能も紹介された。プロセスの間違いを人が修正するだけで、24時間365日休むことなく多言語で働き続ける強力な労働力になる。
「LLMのモデル選びから始めるアプローチはPoC(概念実証)で止まりやすくなります。本番開発に広げたいのであれば、業務基盤となるCRMにAIエージェントを深く組み込むことが重要です」とセールスフォース・ジャパン 三木総裁代行(製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネージャー)は語る。
AI検索「Cogmo」、マニュアル検索の精度向上で業務効率化
アイアクトの西原中道氏は、Web制作会社としての長年の実績とAI事業の知見を生かしたAI検索「Cogmo」(コグモ)によるコンタクトセンター業務の変革について講演した。
従来の検索システムが文字列の一致を求めるのに対し、CogmoはAIが自然文の意図を理解するため、精度の高い検索ができる。マニュアルなどのPDFファイルを検索すると該当ページをピンポイントで開き、生成AIがドキュメントの概要を作成する機能を備えている。
Cogmoはさまざまな自治体や企業で導入が進んでいる。関西のある大手企業は、従業員が利用するポータルサイトにCogmoを導入した。400個に及ぶシステムのマニュアルやFAQを検索対象として、従業員が必要なナレッジや回答を探せる環境を整備。これによって自己解決率が向上してヘルプデスクへの問い合わせが減少した。情報システム部の内線電話を廃止したものの、従業員の満足度は95%を維持しているという。
「基盤システムはそのままで、検索方法を変えるだけで高い従業員満足度を実現できます」とアイアクト 西原中道氏(代表取締役社長 CTO)は語る。
この検索技術はコンタクトセンターでも強力な武器になる。ユーザー向けFAQの検索精度向上はもちろん、電話対応においても会話内容を認識して自動でオペレーター向けのFAQやマニュアルを検索できる。
西原氏は「月額5万円からのスモールスタートが可能であり、大掛かりなシステム投資をすることなく、既存の基盤システムにアドオンできる点が特長です」と語り、ナレッジへのアクセス性向上が自己解決率の向上と問い合わせ削減に直結することを強調した。
テクマトリックス、生成AI活用の効果と課題を報告
コンタクトセンター向けCRMシステムで30年の実績を持つテクマトリックスの津曲浩平氏は、同社が2026年に実施した調査結果を公開した。それによると、コンタクトセンターの問題は「生産性の向上」が最多である一方、生成AIに対する企業の期待値や関心は前回の調査と比較して落ち着き始めているという。津曲氏は「PoCを経て生成AIの活用方法に迷う企業が増えています」と分析する。
その上で津曲氏は「他社の成功事例を自社にそのまま採用しても同じ効果が出るとは限りません。どの場面でどう生成AIを活用するかは、個別に検討する必要があります」と語る。
続けて、音声認識と連携した履歴の自動要約、RAGを活用してハルシネーションを防ぎつつ回答やナレッジを生成することの有効性を提唱。遊技機やホール周辺機器の開発を手掛ける企業において、テクマトリックスのコンタクトセンター特化ソリューション「FastSeries」とCT-e1/SaaSを組み合わせたシステムの構築事例を紹介した。
その企業は、問い合わせ内容の記録やナレッジの作成、検索にかかる時間を短縮したいという課題があった。そこで、CT-e1/SaaSの機能で文字起こしした通話内容を要約し、クリックだけで対応履歴をCRMに登録できる仕組みを構築した。ナレッジの検索時間を短縮するために、会話の途中でそこまでの内容を一度要約し、それを基にナレッジを検索できるようにした。
その結果、導入前と比較して総対応時間が24%、後処理時間が32%短縮した。煩雑で着手が遅れていたナレッジの作成業務は、AIが下書きすることで従業員の作業効率が向上した。AI活用には企業ごとの規制やオペレーターの質に応じた細かいチューニングが必要であると津曲氏は説き、だからこそ同社が外部システムと柔軟につながる「プラグイン」の開発に注力していると語った。
日本マイクロソフト、コンテキスト競争で差別化を
最後に登壇した日本マイクロソフトの小柳嘉一氏は、生成AIのステージが「仕事を自ら進めるAIエージェント」に進んだと述べる。同社は、AIを前提として組織や業務プロセスを根本から再設計した企業を「フロンティア組織」と定義。変革のインパクトを「従業員体験の強化」「顧客エンゲージメント」「ビジネスプロセスの再構築」「イノベーションの加速」の4領域に分類する。しかし、多くの企業がAIを導入しながらも「悪いはずなのに的外れな回答をする」という壁に直面している。
小柳氏はこの問題の背景に、AIがビジネスの前後関係を理解していない点を挙げる。「これからのエージェント時代の競争は、どのモデルを使うかではなく、コンテキスト(文脈)の競争です。人の暗黙知や過去の会話履歴などの文脈を理解できるAIエージェントでなければ、思った成果は出せません」と日本マイクロソフト 小柳嘉一氏(執行役員 常務 コーポレートソリューション事業本部長)は語る。
そのコンテキストを支えるのが、同社が「インテリジェンスレイヤー」と位置付ける4つの製品群だ。このうちWork IQは、過去のチャットやメール、「Microsoft Teams」の議事録の内容などをAIが記憶し、コンテキストを持った対応を可能にする。「AIは、6カ月前のメールも、3カ月前の会議内容も忘れずに覚えています」と小柳氏は話す。
この変革が顕著に現れる領域が、顧客情報や会話履歴といったコンテキストが集まるコンタクトセンターだ。同社は、CopilotとAIエージェントを備えたクラウド型コンタクトセンターソリューション「Dynamics 365 Contact Center」の音声チャネルの国内提供を2026年7月に開始した。「コンテキストを捉まえたAIエージェントと人が協業する世界が実現し始めています」と小柳氏は語る。
パイオニア・ブリーフィングにはその他、PKSHA Technologyやアドバンスト・メディア、ギブリーといった、業界をリードする企業が登壇した。コンタクトセンターの問題を見極めて優れたソリューションと柔軟に手をつなぐエコシステムを選択する。それこそが、LTVを最大化するための処方箋になるはずだ。コンタクトセンターの未来は、すでに私たちの目の前で始まっている。



