宇宙ベンチャーのispace(アイスペース)は7月8日、米スペースXと連携した新たな月面輸送サービスを発表した。翌9日の株価はストップ高となり、市場の期待を集めた。しかし、同社は依然として財務状況に余裕がなく、段階的とはいえ81億円の費用を伴う事業であり、今後の資本政策が焦点となる。
新サービス「月アクセス・インテグレーター」への進化
ispaceの袴田武史CEOは記者会見で、「単なる月面輸送を超え、ペイロード(顧客の荷物)を統合・輸送・運用する一体型のサービスが提供可能な『月アクセス・インテグレーター』へと事業構造を進化させていく」と新戦略を明らかにした。
これまでのispaceのサービスは、自社開発のランダー(月面着陸船)に顧客のペイロードを搭載し、スペースXのロケットで月へ向かう軌道まで運び、その後ランダーが月面着陸を目指すというものだった。新サービスでは、スペースXが開発する新型宇宙船「スターシップ」を活用し、月面までペイロードを運び、そこから目的地までのラストワンマイルをispaceが担う。
具体的には、スターシップの月面輸送サービスのペイロード搭載枠500kgを、ispaceが5000万ドル(約81億円)で購入する。ispaceは自社開発の専用新型車両を使った月面着陸点からの輸送や、顧客の月面での事業展開・運用支援といったプレミアムを追加し、トータルパッケージとして販売する。
「スペースXの代理店ではない」と強調
袴田氏は、自社サービスによる付加価値が他社との差別化につながるとし、「スペースXのスターシップの代理店になるわけではない」と強調した。一方、事業開発担当の神谷秀有氏は「自社ランダーによる月面輸送から事業転換するわけではない」と述べ、既存サービスを軸に新サービスをラインナップに加える形だと説明した。
神谷氏は「自社ランダーでの輸送は、月面基地がつくられるような主要拠点から外れたところへも行ける、いわば柔軟にカスタマイズされた専用タクシー。スターシップでの輸送は大容量で効率的な大型バス。2つの選択肢を持つことで、より幅広いニーズに応えられる」と語った。
実現にはスターシップの開発進展が前提
ispace自身、自社ランダーでの月面着陸成功実績はない。2023年4月の「ミッション1」と25年6月の「ミッション2」はともに失敗に終わり、次のミッションは29年3月期の打ち上げ予定だ。スペースXのスターシップも開発途上で、月面着陸実績はなく、安定運用を目指している段階。今回契約した輸送サービスの開始は「最速で30年」と想定されており、新サービスの実現はスターシップの技術開発や試験飛行の進展が前提となる。
なお、今回の連携はスペースX側から持ちかけられたものだという。袴田氏は「世界各国に拠点があり、分散するニーズを獲得できる能力や、月面着陸・運用ノウハウを持つことが評価された」と認識を示した。
財務リスクと資本政策の課題
気になるのは財務への影響だ。ispaceの26年3月期末時点の現金及び現金同等物は296.9億円と一見余裕があるように見えるが、同社は依然として大型投資が続く開発フェーズにある。81億円の支出は段階的とはいえ、キャッシュポジションを圧迫する可能性がある。今後の資本政策を含め、どのようなプランを描いているのかが注目される。



