6月10日に開催されたフジテレビの番組審議会で、5月14日に放送されたバラエティ特番『AI実験バラエティ シンギュラ』が議題となった。委員からは、生成AIを本格的に活用した実験的な試みとして「挑戦精神に拍手を送りたい」との評価が上がる一方、「画像処理によるディープフェイクを奨励しかねない側面が否定できない」といったリスク面への懸念も示された。番組制作側は「人間の力がAIを超える瞬間を見せたい」と狙いを説明した。
挑戦精神への高い評価
同番組は、大喜利やものまねといった従来のお笑いフォーマットに生成AIを組み合わせた実験的な内容。審議会ではまず、その挑戦性を評価する意見が多数を占めた。委員からは「実験精神にあふれ、クリエイティブなものを創り出そうという心意気が感じられる」「これだけAIをしっかり取り入れた番組はおそらく初めて。挑戦精神に拍手を送りたい」といった声が上がった。
また、生成AIの日常化という大きなテーマをバラエティとして取り込んだ点も評価された。「最近のAI報道にはネガティブなものが多い中、AIを純粋に楽しむ姿勢で臨んだ点が良かった」との意見があり、AIを不安や脅威ではなく遊びや笑いの中で扱った点に前向きな評価が集まった。
中には「20年後、30年後はほとんどがAIの番組になっているかもしれないが、その時に振り返れば、最初はフジテレビのこの番組が出発だったとなる歴史に残る番組」と将来の意義に言及する委員もいた。
AIが引き出した芸人の力
審議では、AIそのものの面白さ以上に、AIを使う人間側の力が浮かび上がったとの指摘が目立った。「芸人の力が改めて認識された。AIを使う時にこそ人間の実力がより問われる」「お笑いはAIがまだ入っていけない領域だと、芸人の力を再発見させた」といった意見があり、AI導入によって逆説的に人間の発想力や対応力、プロフェッショナルな技術が際立ったと受け止められている。
特に「空想ものまねショー」については、「AIの答えが面白いというより、AIの答えに右往左往し振り回される人間を見るのが面白かった」との声がある一方、「最初は意図を理解できなかった」という意見もあり、AIの至らなさを芸人がカバーする面白さが伝わるまでに時間がかかった点が課題として挙げられた。
ディープフェイク懸念と過激表現への指摘
AI番組ならではのリスクも指摘された。委員からは「画像処理によるディープフェイクを奨励しかねない側面が否定できない」との意見が出た。AIのマイナス面を強調する必要はないが、社会へのリスクを気づかせる問題意識や、AIの別の側面を逆利用する企画があっても良かったのではないかという指摘だ。
また、リアルな映像でも視聴者が「これは嘘ではないか」と疑う視点が増える可能性に触れ、同番組が日本人のAIリテラシー向上のきっかけになった可能性も示唆された。
具体的な表現については、AIが生成したきょうだいのけんか動画が「小さい子どもにしては過激な動き」で気になったという意見が。また、「柴田理恵の卒業式の写真」で「高校時代に放課後欠かさずやっていたことは?」というお題で芸人たちが画像を生成するブロックでは「柴田理恵さんに水着を着せたり藻を食べさせたりしたところが気になった」との声も。さらに、スタッフの笑い声について「昔のフジテレビっぽさ、内輪感を感じた」という指摘もあった。
プロンプト表示への期待とMCの立ち位置
番組作りの面では、AIにどのような指示を出したか、いわゆるプロンプトをもっと見せてほしいという意見が複数出た。「AIの答えだけでなく、芸人がどこまで細かくコントロールしたかというプロンプトを表示してほしい」「芸人たちのプロフェッショナルな部分を感じたからこそプロンプトを見たい」との声があり、生成結果だけでなく人間側の思考やこだわりの可視化が期待された。
MCの若林正恭が別室から俯瞰的にコメントするスタイルについては「メタ的で面白かった」と評価される一方、「立ち位置が中途半端」「上から目線に見える」という意見もあった。
フジ側の説明と今後の課題
こうした意見に対し、フジテレビ側は、大喜利やものまねという親しまれてきたフォーマットにAIを組み合わせ、今の時代に合った新しいコンテンツを作ろうとしたと説明。AI解説を冒頭に入れることも検討したが、バラエティとして情報性をあえて排除し、「実はこの企画の裏にAIが使われている」という見せ方を目指したという。
AIのリスクについては「今後も番組を続ける上で課題として考えていかなければいけない」と受け止めた。番組の狙いについては、企画立案ディレクターが「人間の力がAIを超える瞬間を見せたい」と語ったことにプロデューサーとして共感したと説明。AIを主役にせず、AIを使うことで人間の力が浮かび上がる番組を目指したことが明かされた。
若林の立ち位置については、日常的にAIを使っている人物であることを描かない構成にしたため偉そうに見えたと反省。プロンプトについては、次回があれば人の考え方や「脳みその中」が見えるような構成を目指したいと回答した。



