九重町の飯田高原を拠点に自然環境や生態系の保護活動に取り組む「九重ふるさと自然学校」の事務所が8月末、茅葺き屋根に生まれ変わった。代表の川野智美さん(56)は「茅葺き屋根は草原保全のシンボル。学校の理念である『自然環境と地域社会の共存・共栄』のシンボルでもある」と、葺き替えを終えたばかりの屋根を見上げて思いを語った。
すべてが循環素材の茅葺き屋根
自然学校は一般財団法人「セブン―イレブン記念財団」(東京)が2007年に開校。体験型プログラムを通じた環境教育などにも力を入れている。現在の事務所は2019年、かつての旅館に「居抜き」で入居した。大規模改修のタイミングに合わせ、スレート葺きだった屋根を茅葺きにした。
屋根を葺く草を総称して茅と呼ぶ。草原で黄金色に波打つススキが最も多く、地域によっては水辺のヨシや稲わらなども使われる。葺き替え作業を担当した中谷康治さん(52)は「竹や縄を含め、身の回りにある素材を使って屋根を葺き、古くなって役目を終えた茅は堆肥にして土にかえす。茅葺き屋根はすべてが循環素材。昔の人の知恵が今に生きている」と魅力を語る。
地元産の茅で全面葺き替えを目指す
中谷さんは2010年に古里の九重町へUターンした。それまでは福岡市のコーヒー豆専門店に勤めるなどしていたという。2017年、町内の茅葺き職人に弟子入りして技術の習得に努め、2024年に独立した。
屋根の厚さは40~60センチ、面積は約250平方メートル。雨漏りを防ぐために45度以上の急勾配に作り替えている。池のほとりに新しく作ったあずま屋も、面積約20平方メートルの茅葺き屋根にした。2メートルを超えるススキを1把あたり直径約20センチの束にして、事務所だけで3500把以上使用したという。
ただし、地元でこれだけの量を確保するのは難しく、広大な草原が広がる熊本県阿蘇地方から大量に調達せざるを得なかった。今後は5~10年ごとに修繕を行い、30年後をめどに全面的に葺き替える予定だ。
草原に野焼きの火が入った後、茅が伸びて刈り取られ、また再生する――。茅葺き屋根は、世代を超えて受け継がれてきた健全な草原の営みと、切っても切れない密接な関係にある。
草原の公益的機能への理解を
「次は全量、飯田高原の茅を使って葺き替えるのが夢。水源涵養機能や森林以上と言われる二酸化炭素(CO2)の吸収効果など、草原が果たしている公益的機能がもっと知られるようになり、その保全、活用が『なりわい』として成り立つような世の中になればいい」。川野さんの切なる願いだ。



