獣害対策にAI、ゼロフィールドの「モリフクロウ」と秋田県立大学准教授が語る現状と可能性
獣害対策にAI、ゼロフィールドの「モリフクロウ」と専門家が語る

野生動物による農作物被害や市街地への出没が深刻化するなか、AIを活用した新しい対策が注目されている。株式会社ゼロフィールドが開発したAI野生動物撃退装置「モリフクロウ」は、カメラ映像をAIが解析し、対象を識別したうえで撃退処置を行うシステムだ。技術監修を務める秋田県立大学木材高度加工研究所の野田龍准教授と、ゼロフィールドの平嶋遥介CEOに、獣害の現状とAI活用の可能性を聞いた。

年間約188億円の農作物被害、市街地へのクマ出没も増加

野田准教授によると、農林水産省が毎年発表する都道府県別の被害金額は、全体で毎年おおむね150億円から200億円規模で推移している。令和6年度のデータでは約188億円となり、近年は増加傾向にあるという。被害の中心はシカやイノシシで、そのほかカラスなどの鳥類、サル、クマによる被害もある。

農作物被害だけでなく、クマが市街地に出没するケースも増えており、住民の安全に関わる問題となっている。学校、公園、病院、観光施設、キャンプ場、ゴルフ場など、人が集まる場所にもリスクがあり、鉄道や高速道路に関わる被害も無視できない。新幹線を止めざるを得ないケースや、夜間の保守作業員の安全確保が課題となっている。

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従来対策の限界とAI技術への期待

従来の獣害対策としては、鳥類に対しては鳥ネットや凧を使った威嚇、シカやイノシシに対しては電気柵や高い柵、ネット巻き、トタン板で囲う方法などがある。しかし野田准教授は「動物は賢いので学習します。最初は警戒しても、時間が経つと『これは危険ではない』と覚えてしまうことがあります」と指摘する。

特にイノシシは地面を掘って侵入し、シカは高い柵を飛び越えることもある。対策には労力と費用がかかる一方、効果が得られないケースも少なくない。クマの場合は、市街地では電気柵などの設置場所が限られるため、早期に検知し近づけない仕組みが重要になる。野田准教授は「そこでAI画像認識のような技術に期待が出てきます」と話す。

モリフクロウの仕組みと特徴

モリフクロウは、カメラ映像をAIが解析し、対象物を検出する。そのうえで、脅威かどうかを判断し、必要に応じて音や光などの装置と連動して撃退処置を行う。対応した映像や履歴は保存され、管理者にリアルタイムで通知される。

平嶋CEOは「『何かが映ったら全部反応する』のではなく、AIが対象を識別し、条件に応じて対応できる点が重要です。人や車、動物などを見分け、必要なときだけ対処することで、誤作動を抑えながら運用できます」と説明する。既存のカメラ設備を活用できるため、導入コストや工事の負担を抑えられるのも特徴だ。電源が取りにくい場所ではソーラー電源にも対応する。

専門家が見るAI活用の意義と今後の展望

野田准教授はモリフクロウの取り組みについて「率直に言うと、『渡りに船』でした。私自身も、こうした仕組みが必要だと考えていましたので」と語る。AIによる検知と、動物の行動特性に基づいた忌避刺激の設計を組み合わせることで、より実効性のある対策につながる可能性があるという。

また、動物が音や光に慣れてしまう「順化」への対策として、刺激をランダムに変化させたり、対象動物に応じてパターンを調整したりする工夫が必要だと指摘する。動物愛護の観点からは、山にいる動物は基本的に山にいてもらえばよく、人の生活圏に入ってこない限り駆除する必要はない。AIで早期に検知し、直接的な危害を加えずに遠ざける技術は「共生のための選択肢になり得る」と話す。

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今後の展開として、平嶋CEOはドローン企業との連携を検討している。現在の仕組みでは撃退後の動物の移動先を追えないため、ドローンと組み合わせれば移動先の確認や個体数調査、獣道の把握などにつながるという。野田准教授は自動運転車との連携や、自然公園での活用にも可能性を見出す。人流分析によるイベント会場の混雑把握や防犯、熱中症などの体調不良者の検知にも応用できるとしている。

獣害対策は、農作物を守るだけでなく、地域の安全、観光、交通、防犯、そして人と自然の距離感をどう設計するかというテーマでもある。平嶋CEOは「AIやデータを活用し、少ない人数でも安全を守れる仕組みをつくることは、地域の持続可能性にもつながると考えています」と述べている。