世界的な電気自動車(EV)シフトの減速が鮮明となる中、日本政府と自動車業界が蓄電池の国内生産基盤強化に向けて官民連携を加速させている。経済産業省がまとめた戦略では、2030年までに国内の蓄電池生産能力を現在の約2倍となる150ギガワット時(GWh)に引き上げる目標を掲げる。これは約200万台分のEVに相当する規模だ。
官民連携の背景と具体策
経産省の担当者は「地政学的リスクやサプライチェーンの脆弱性を踏まえ、蓄電池の国内一貫生産体制の構築は経済安全保障上の重要課題だ」と説明する。具体的には、トヨタ自動車や日産自動車など大手メーカーと電池メーカーが連携し、北九州市や苫小牧市などに大規模工場を新設する計画が進行中。政府はこれらのプロジェクトに対し、補助金や税制優遇措置で最大1兆円規模の支援を検討している。
日本はかつてリチウムイオン電池の世界シェアでトップを走っていたが、中国や韓国企業の急成長により、現在のシェアは約10%に低下。特に中国のCATLや韓国のLGエナジーソリューションが生産量で圧倒的な優位に立つ。こうした状況を受け、日本政府は「蓄電池産業戦略」を2022年に策定し、官民で総額3.4兆円の投資を計画。今回の目標はその進捗を加速するものだ。
EV販売減速と技術開発の両立
一方で、世界的なEV販売の伸び悩みが懸念材料だ。2024年の世界EV販売台数は前年比約20%増と予測されるが、2023年の35%増から鈍化。特に欧州では補助金縮小の影響で需要が低迷している。日本国内ではEVの新車販売比率がわずか2%程度にとどまる。トヨタの担当役員は「EV一辺倒ではなく、ハイブリッド車(HV)や水素エンジン車などマルチパスウェイ戦略を継続するが、電池技術の進化は全電動車に共通する基盤技術だ」と強調する。
こうした中、全固体電池など次世代技術の開発競争も激化。トヨタは2027~2028年の全固体電池搭載車の量産化を目指し、日産は2028年度までに独自の全固体電池を搭載したEVを投入する計画だ。経産省はこれらの研究開発に対し、最大2,000億円の支援を表明している。
サプライチェーン強靭化と資源確保
蓄電池の原料となるリチウムやニッケル、コバルトなどの資源確保も課題だ。日本はこれらの鉱物をほぼ全量輸入に依存しており、資源国との連携強化が不可欠。経産省はオーストラリアやチリなど資源国との協定締結を進め、安定供給の確保を目指す。また、使用済み電池からのリサイクル技術の開発も促進し、2030年までにリサイクル材の使用比率を10%以上に引き上げる目標を掲げる。
専門家からは「EV需要の減速は一時的であり、長期的には成長市場。今こそ国内生産基盤を固める好機」との声が上がる。一方で「政府の支援だけでは競争力は維持できない。企業自身の技術革新とコスト削減が不可欠」との指摘もある。日本の蓄電池戦略は、EV市場の変動を乗り切り、持続可能なモビリティ社会の実現に向けた試金石となる。



