Baya Systemsが日本オフィス開設、データ移動最適化で世界第4のIPベンダー目指す
Baya Systemsが日本オフィス開設、データ移動最適化で世界4位のIPベンダー目指す

半導体IP企業のBaya Systemsは8月25日、日本オフィスを開設した。元Synopsysの猪飼歩氏がDirector of Salesとして着任している。9月7日にはCEOのSailesh Kumar博士と、今年3月にCOO(Chief Commercial Officer)として着任したNandan Nayampally氏が来日し、事業戦略について説明した。

Jim Keller氏の一言から始まったBaya Systems

Kumar博士はSystem Fabric開発のNet Speed Systemsを共同創業し、CTOを務めていた。同社は2018年にIntelに買収され、Kumar博士はIntelに移籍。IntelではJim Keller氏と約3年半密接に働いた。その後、Keller氏がTenstorrentに参画してから1年後、Keller氏から「Fabricが新たなボトルネックになっている。もう一度、新しいFabricの会社を立ち上げる必要がある」と連絡があり、これがBaya Systemsの始まりとなった。資金調達からチーム編成、会社としての稼働までわずか1か月という迅速さだったという。現在は元Intel出身者を中心にチームが構成されている。

Tenstorrentとの協業を足掛かりに日本市場へ

同社は欧米を中心に販路を広げており、アジア地域はシンガポールのAdoreSysとパートナー契約を締結しているが、日本に関しては直接アクセスすることになった。日本を重視する理由について、「半導体およびHPCへの投資が活発であること」「密接なパートナーであるTenstorrentが日本で非常に活発に活動しており、政府との議論やテストプログラムにBayaを引き入れてくれていること」の2点を挙げた。ただし、「Slowly but steadily」であり、今すぐ大きな動きに繋がるわけではないという。

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AI半導体の新たなボトルネックは「データ移動」

Bayaのフォーカスは「Data Movement」である。トークン数は2030年までに120倍に増えると予測される一方、供給可能な電力量は約2倍に過ぎない。つまり、トークン当たりの消費電力効率を60倍にしないと辻褄が合わない。これを解決するにはコンピュート能力の高密度化が求められるが、課題となるのがチップレットやチップ同士の複数デバイス統合である。UCIeは物理層の仕様であり、その上に通すプロトコルはユーザーが自前で開発する必要がある。Bayaは、チップレット設計やNoC設計でユーザーが悩みながら実装していたプロトコルなど上位層へのソリューションを提供する。

チップレット設計の課題をWeaverProで一貫支援

設計フローでは、WeaverProのツールを使うことで初期要件の把握からアーキテクチャ解析、ワークフローおよびトラフィックパターンのエミュレーション、マイクロアーキテクチャ設計、最終的なFabricの自動生成まで一貫してサポートする。さらに、ポストシリコンのチューニングや、内蔵テレメトリ機能によるルート最適化、QoS制御にも対応する。

これを支えるWeaveIPとして、256個のチップレットと512個のSLC(System Level Cache)をサポートするCache Coherent Fabric IP(CHIおよびMulti-Layer CHIベース)、AXIを利用せず軽量な独自プロトコルを定義したい顧客向けのCustom AI Fabric IP、AXI準拠で既存のI/OやGPU、NPUに利用可能なNon-coherent Fabric IP、Scale-up/Scale-out Fabric向けのNeuroscale(Crossbarの代替)を提供する。Neuroscaleについて、スイッチチップ全体を置き換えるのではなく、PHYやプロトコルエンジンは顧客自身が実装し、チップ内部のPHY間でメッセージやデータをノンブロッキングで転送するDigital Crossbar Coreの部分を提供すると説明。完全なデジタルIPであり、小さなスイッチングタイルとして複製可能で、UCIeなどを介したDie-to-Dieスケーリングにも対応できるという。

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SynopsysだけでなくCadenceやSiemensの環境にも対応

Baya SystemsはSynopsysから出資を受けており、取締役会にはSynopsysのSiva Yerramilli氏(CVP, Corporate Incubation Group)が参加している。SynopsysのPlatform ArchitectからBayaのFabricStudioを呼び出して使う統合が行われているが、EDAツールに対して中立の立場を取っており、CadenceのチップフレームワークやSiemensの環境とも連携可能で、実際にCadenceでBayaのソリューションを利用している顧客もいるという。ツールは標準的なSystem C API、Python API、C++モデルを介してインタフェースされている。

チップレットに限らずモノリシックなSoCもターゲット

Bayaのソリューションはチップレット構築のためのツールとIPに見えるが、データムーブメントの最適化が目的であり、モノリシックでもチップレットでも変わらない。モノリシックなSoCを構築する顧客にも役立つという。日本オフィス開設のリリースでは、Tenstorrentの顧客に対するFabric構築サポートが最初のミッションと説明されているが、「きっかけはTenstorrentであるが、BayaはTenstorrentに依存している訳ではなく、独立して独自顧客を獲得してゆく」と述べた。

需要についてKumar博士は「我々は小規模な会社だ。だから、もし顧客が3社あれば、それは素晴らしい。5社獲得できれば、さらに良い。20社獲得出来たら大金星だ。我々は、Bayaの提供する技術の素晴らしさを証明するために、ここに居る」と語った。

今後のマーケットについて、富士通のHPCへの取り組みやルネサス エレクトロニクスの自動車向けソリューションへの取り組みを注視しているとし、多くの自動車OEMが独自システムを構築していることにも注目している。トヨタやホンダも検討しているか、少なくとも必要な仕様を定めているところだという。Bayaのソリューションが自動車や産業機器向けの機能安全仕様に言及しているのは、こうした自動車向けビジネスを狙っている部分が大きいとみられる。ただし、ASIL-BやASIL-Dの取得には膨大な労力と時間が必要で、今すぐ提供できるわけではない。

「世界第4のIPベンダー」を目指すBaya Systems

Kumar博士は、Exit(売却)については「何も考えていない」と明言。「我々は素晴らしいビジネスを築くためにこの事業に取り組んでおり、素晴らしいビジネスは素晴らしい製品の上に成り立ち、そして素晴らしい製品は素晴らしい人材によって生み出される」と語った。また、「高性能コンピューティングや高性能インフラストラクチャに携わる人に話を聞けば、誰もが口を揃えて『制約となっているのは接続性とデータの移動だ』と言うだろう。AIデータセンターを詳しく見てみると、AI演算リソースがしばしば遊んでいる。メモリからAI演算リソースへデータを移動させることが出来ないからだ。つまりデータの移動こそが最も核心的な課題なのだ」と説明。チームメンバーはNet SpeedやIntel、Armでの勤務経験があり、全員が「遂に自分たちの専門知識が最も活かされる時代が来た」と感じているという。

「歴史的に見れば、ほとんどのIP企業はSynopsysかCadenceなどに買収されてきた。ただ我々は持続可能なビジネスを築き上げ、市場で4番目の大手IPベンダーになれると確信している。何故なら我々は『正しい問題』を解決しており、当社の製品には膨大な需要があるからだ」と述べ、Exitについてはまったく考えていないと強調した。

Bayaのソリューションは「Chiplet IPs and Tools」ではなく「Data movement IPs and Tools」と見るのが正確だろう。競合としてはCadenceのJanus NoCやArteris IPのNoC IPなどが挙げられる。Kumar博士の言うように、世界第4のIPベンダーになれるかどうかが注目される。