Snowflakeは、2026年8月に開催した年次カンファレンス「Snowflake Summit 26」において、AIエージェント時代におけるデータ基盤の価値向上と差別化戦略を明確に打ち出した。同社のCEOであるスリダー・ラマスワミ氏は、ソフトウェア開発コストがゼロに向かう中で、信頼できるデータ基盤の価値はむしろ高まるとの逆説的な見解を示した。
過去最高の決算とAI機能の普及
SnowflakeはSummit直前の2026年5月27日(現地時間)、2027年1月期第1四半期(2026年2~4月)の決算を発表した。売上高は前年同期比33%増の13億9000万ドル、プロダクト収益(プラットフォーム利用料)は同34%増の13億3000万ドルとなり、いずれも過去最高を記録した。これを受け、通期のプロダクト収益の見通しを前回の27%増から31%増の58億4000万ドルに上方修正した。
同社が強調したのは、製品の普及速度だ。SnowflakeのAI機能を毎週利用しているアカウントは1万3600件を超え(四半期ベースの4週間平均)、プログラミング作成を支援するコーディングエージェント「CoCo」(旧Cortex Code)は7100を超えるアカウントで利用され、同社史上最速の普及だとしている。「CoWork」(旧Snowflake Intelligence)を利用するアカウントは前四半期から2倍以上に増えた。世界の顧客数は1万3900社を超え、今年のSummitは過去最大規模で2万人以上が参加し、200を超えるパートナーが集まった。
「AIをビジネスの現実に」—3つの柱
ラマスワミ氏は「AIが大きな変化を起こしている。ソフトウェア開発コストは急速に低下しゼロに向かっているが、テック業界全体はその変化の全容をまだ完全には消化しきれていない」と述べた。「予測は簡単だが、証明は難しい。SnowflakeはAIを実際にビジネスで使えるレベルにすることを目指す」と続けた。
今回のSummitでは「Making AI Real for Business」(AIをビジネスの現実にする)というテーマを掲げ、次の3つを柱として打ち出した。
- コアデータプラットフォームの強化:データ基盤そのものの機能を拡張
- CoCoによる開発の効率化:コーディングエージェントで開発を加速
- CoWorkによる仕事の在り方の変革:知識労働者の働き方を根本的に変える
ユーザーはさまざまなアプリケーションを行き来しながら情報をつなぎ合わせている。ラマスワミ氏は、AIによってアプリ間の移動が不要になり、必要な情報とアクションを同じ環境に集約できるとの見通しを語った。「驚くほど多くのことが成し遂げられる環境が実現する」と述べている。
独自AIエージェントへの投資理由
今回のSummitにおける象徴的な発表は、製品名の改称だ。前述のようにCortex CodeはSnowflake CoCoに、Snowflake IntelligenceはSnowflake CoWorkになった。
これらの製品の命名には興味深い経緯がある。「社内エンジニアがアスキーアートのペンギンのロゴを添えて『CoCo』と呼び始め、その名前が顧客の間で自然に広まった。ブランド力が生まれたことを受けて正式名称として採用した。CoWorkはCoCoを補完する名前として選んだ」とラマスワミ氏は明かした。
これら2製品は、Snowflakeが「エージェンティックコントロールプレーン」(複数のAIエージェントを統合管理・制御する仕組み)と呼ぶ概念の中核だ。CoCoはデータエンジニアや開発者向けのコーディングエージェントで、単一のプロンプトから本番対応のパイプラインやアプリを生成する。
一方、CoWorkは知識労働者向けのパーソナルエージェントだ。CFO(最高財務責任者)などの非技術系ユーザーも安心して使えるよう、より高い正確性と厳格なガバナンスの下で動作する設計だ。CoWorkは「Deep Research」機能で構造化データと非構造化データを横断するマルチステップ推論を実行する。成果物を共有する「Artifacts」やコラボレーション機能も新たに加わった。
SnowflakeではサポートチームがCoCoを活用し、成果を上げているという。サポートチームは、100人のエンジニアが構成した12種類のデバッグツールについて、CoCoが問題に応じて適切なものを呼び出せる形に組み込み直した。
ラマスワミ氏は「大げさな号令をかけることも、私が関与することもなく、CoCoチームとサポートチームが自分たちで解決した」と述べ、エージェンティックAIが組織に自律的に浸透している様子を示した。同時に、システムの実装と価値の実現を担うパートナー企業にとってもCoCoは「大きな機会をもたらす」と述べた。
Snowflakeが自社独自のエージェントに投資する理由について、ラマスワミ氏は次のように答えた。「エージェントのインターフェースはWebブラウザやスマートフォンの画面に相当する。もしユーザーがソフトウェアとどう対話するかというこの『入り口』を押さえれば、それは大きな戦略的リスクになる」
AIエージェントのインタフェースから得られるテレメトリデータ(利用状況を示す計測データ)の価値については、次のように指摘する。「CoCoを通じてユーザーがどこで困っているか、どの機能を使おうとして止めたか——。こうした行動データが製品改善に直結する。これは、優れたアプリベンダーがWebサイトを持つと同じ理由だ。ユーザーと直接対話する接点を持つことで、初めて見えてくるものがある」
クラインアマン氏はこのコメントに補足して「かつてSnowflakeはバックエンドに徹する会社だった。AIの登場が当社にフロントエンドの機会をもたらした」と語った。
差別化と競争優位性—「コアへの注力が重要」
Snowflakeが打ち出すエージェンティックコントロールプレーンのようなガバナンスやコンテキスト(文脈)管理の領域は、SaaSベンダーをはじめとする他社も注力している。
こうした状況について問われたラマスワミ氏は、「差別化はむしろ容易になっている」と強調した。
「真に接続され、信頼できるデータプラットフォームの構築は、技術的に依然として非常に難しい。無限スケールや災害復旧のような領域への投資は、引き続き価値を持つ」と述べた。
同時に、ガバナンスが重要ということと、無限スケールや災害復旧、高い接続性を実際に構築して提供することは別だと主張した。Snowflakeはこうした領域に12年間投資してきたという。同じ方向を向く競合が増えた今こそ、「実際に作られているかどうかの差が際立つ」というのが同社の主張だ。
会期中には、データとAIを一元管理・ガバナンスするカタログ基盤「Horizon Catalog」の拡充を発表した。新機能として「Horizon Context」が加わった。
「収益」という言葉一つをとっても、会計システムと営業システムでは定義が異なるケースがある。そのままAIに分析させると、システムをまたぐたびに答えがブレる。Horizon Contextは、外部システムからビジネス用語の定義や文脈を自動的に読み取る機能だ。対象にはデータベース管理システムの「PostgreSQL」「Microsoft SQL Server」や、データを視覚化して分析するビジネスインテリジェンス(BI)ツールの「Tableau」「Microsoft Power BI」が含まれる。AIが社内のどのデータを使っても同じ基準で動作できる状態を作る。
競合他社との競争について、ラマスワミ氏は「自社のコアの強みを生かすことが重要だ。そうしなければ、何も持たないスタートアップと同じ条件で競うことになる。多くの場合、戦略よりも実行力で差がつく」と語った。
SnowflakeはAIモデルを構築するOpenAIやAnthropicなどとは協業関係にある。一方で、こうしたAIベンダーがSaaSのビジネスモデルを脅かしつつあるという見方について、ラマスワミ氏は次のように答えた。
「超巨大規模の企業が何の制限もなく参入してくる世界では、すべてのソフトウェアベンダーは自社の存在意義について強い危機感や警戒心を持つべきだ。ハイパースケーラーに対しても同じことが言える」
ラマスワミ氏はOpenAIやAnthropicのようなAIベンダーが「潤沢な資金を持ちながらみなまで未来を自由に設計できる」のに対し、SaaSベンダーは「ビジネスプロセス(業務の一連の手順や流れ)への深い理解がある」と整理し、「誰が勝つのか、歴史が明らかにするだろう」と付け加えた。
長く製品戦略を担当してきたクラインアマン氏は、データのガバナンスを確立した上で、計算処理のリソースであるコンピュートをデータに近づけるという原則がSnowflakeのコアにあると説明した。その上で、アプリ戦略について当初の判断を修正したことを認めた。
「以前はインフラ(システム稼働に必要な基盤)要件に固執しすぎた。現在は、開発者が使いたいフレームワーク(開発効率を高めるための標準的な枠組み)を自由に選べるよう柔軟性を持たせながら、コンピュートをデータに近づけるという基本原則を取る方向で進めている」
クラウド中立性とマルチクラウド戦略
Snowflakeは決算発表に合わせて、AWS(Amazon Web Services)との60億ドル規模の複数年契約を発表した。Q&Aセッションでは、特定のクラウド事業者に依存せず複数のインフラを平等に扱うという同社の「クラウド中立性」に疑問が投げかけられた。
ラマスワミ氏はこれに対し、「当社のビジネスは約70%がAWSを経由している。残りはMicrosoft AzureとGoogle Cloudが占めるが、これは年収益ベースで換算すれば相当な規模だ。Microsoft AzureおよびGoogle Cloudとのパートナーシップには深くコミットしており、引き続き投資を続ける」と述べた。
クラインアマン氏はこれに加え、「われわれはまずAWSでサービス提供を開始し、その後Microsoft AzureとGoogle Cloudを追加した。AWSの比率はかつての100%から着実に低下している。Microsoftとのパートナーシップは、オープンソースの標準データ格納規格であるIcebergを通じたMicrosoftの統合データ分析プラットフォームである『Microsoft Fabric』との連携を含め業界最高水準だ。SnowflakeとFabricの統合は、Fabricが他のエンタープライズシステムとの統合より優れていると自負している」と述べた。
さらにラマスワミ氏は、クラウドと同様にAIモデルについても特定のベンダーに依存しない姿勢が今後重要になるとの見方を示した。「オープンソースモデルを活用して顧客コストを柔軟に下げられる点も、クローズドソースに収益を依存する業界にはない強みだ」と語った。
コスト最適化と「インパクト最大化」
AIのコストが問題になり、トークン(AIが処理する文字列の単位)の使用量の多さを競う「トークンマキシング」という言葉も聞かれる。これについてラマスワミ氏は「トークンマキシングは最悪のアイデアだ」と一蹴した。「大切なのはインパクト最大化だ。使用量が多いことと生産性はイコールではない。AIを賢く使うことが重要だ」
ラマスワミ氏は、3カ月かかっていたシステムマイグレーションのプロジェクトが5時間以内に完了した例や、英語で書いた仕様書だけを与えてAIが週末のうちにモバイルアプリを構築した例を挙げた。「このセッション直前の10分間に、CoWorkに4本のプレスリリースを貼り付けSummitの全発表を整理した」と自らの体験も明かした。
技術面では社内エンジニアが考案した「スキルコンパイル」と呼ばれる最適化手法にも言及した。英語で書かれた定型のスキルを、決定的(同じ入力に対して必ず決まった結果を返す処理)なコードにコンパイルする。単純な質問にはモデルを呼び出さずに即座に処理し、複雑な計画・推論タスクにのみ、性能の高い最新世代のAIモデル(フロンティアモデル)を使う設計だ。
「コスト最適化はわれわれにとって、AIをやめる理由ではなく最適化の機会だ。その成果をCoWorkとCoCoに組み込み、顧客が再発見しなくて済むようにしたい」とラマスワミ氏は述べた。



