伊勢丹新宿、人気時計を展示のみで販売しない異例の取り組み
伊勢丹新宿、人気時計を展示のみで販売しない異例の取り組み

伊勢丹新宿店は7月8日から、独立時計師の浅岡肇が復活させた「タカノ」と、片山次朗が手がける「大塚ローテック」の常設展示を開始した。ただし、これらの時計は店頭で販売されない。百貨店の時計売り場では異例の取り組みだ。

日本の独立時計師、国際的に評価が急上昇

背景には、日本の独立時計師を取り巻く環境の大きな変化がある。かつて高級機械式時計といえばスイスブランドが圧倒的で、小規模生産の独立時計師の世界でも欧州勢が中心だった。しかし近年、日本の時計師たちが国際的な評価を急速に高めている。

2024年には大塚ローテックが「時計界のアカデミー賞」とも呼ばれるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの部門賞を獲得。浅岡が復活させたタカノの「シャトー・ヌーベル・クロノメーター」も、フランス・ブザンソン天文台のクロノメーター検定に国産腕時計として初めて合格した。いずれの製品もスイスの国際時計博物館に収蔵されている。

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高い部品技術と独立時計師文化のギャップ

日本にはケースや文字盤、針、研磨など世界トップクラスの部品メーカーや加工会社が数多く存在する。一方で、時計師自身が設計からデザイン、組み立てまで一貫して手がける「独立時計師」という文化は欧州ほど根付いていなかった。

その状況を変えた一人が浅岡肇だ。2011年に独立時計師として活動を始め、自ら設計・製作するブランド「ハジメ・アサオカ」で海外コレクターから高い評価を獲得した。その後、国内の独立時計師が次々と現れ、片山次朗もその一人として世界市場で存在感を高めてきた。

「日本らしさ」ではなく、独自の追求が生んだ評価

片山は工業機械や計測器を思わせる独創的な表示機構で評価され、浅岡は日本の精密加工技術を生かした時計づくりに挑んできた。いずれも「日本らしさ」を前面に押し出したわけではない。それぞれが独自の時計づくりを追求した結果、世界が評価した。

伊勢丹新宿店は本音では「売りたい」と考えているが、展示のみにとどめた。その理由について、同店関係者は「まずは多くの人に実際の製品を見てもらい、日本の独立時計師の技術と魅力を理解してほしい」と説明する。販売は行わないが、展示を通じてブランドの認知度を高め、将来的な販売につなげる狙いがあるとみられる。

この取り組みは、日本の独立時計師の世界進出を後押しする一歩となるかもしれない。百貨店という大きな舞台で、普段は目にすることが難しい高級時計を実際に手に取って見られる機会は、時計愛好家にとって貴重な体験となるだろう。

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