愛知県岡崎市羽栗町の農道沿いに、今年6月、週末限定の小さなカフェがオープンした。米粉スイーツ店「コメノソラ アトリエ」。店主は高木敏行さん(55)。大手製薬会社で25年間、新薬の臨床開発などを担当してきたが、2年前に実家のコメ農家を継ぎ、カフェ経営に挑戦している。
製薬会社から農業へ、異色の転身
高木さんは岡崎高校を卒業後、東京工業大学(現・東京科学大学)に進学し遺伝子工学を学んだ。博士課程を終えた1999年に三共製薬(現・第一三共)に入社。新薬の創出や臨床開発に携わり、グローバルプロジェクトのリーダーも務めた。海外の製薬会社との交渉や、新薬の製造・販売承認を各国政府から取得する業務は大変だったが、「多くの患者に新薬を届けるという社会的意義があり、やりがいを感じていた」と振り返る。
一方、数年前から帰郷の判断を迫られていた。実家のコメ農家で父の体力が続かなくなったためだ。農繁期には高木さんと2人の妹が家族を連れて集まり、稲刈りなどを手伝う。家族で支える小規模農家の絆を感じ、「先祖代々のこの場所を残したい」との思いを強くした。2年前、父が思うように歩けなくなり、帰農を決意。会社員の妻と小学生の娘を東京に残し、岡崎に戻って県農業大学校で農業経営を学び、後を継いだ。
自分らしい農家の形を模索
高木さんは自分らしい農家の形を考えた。販路は農協や産直に限られがちだが、「作るだけでなく、消費者と接する『出口』に関わることができないか」と考え、生産した米を使ったカフェの経営を思いついた。
カフェでは、米粉を使ったブルーベリーシフォンケーキ(520円)やシュークリーム(420円)のほか、米糀のミルクを使ったかき氷も提供する。現在はテイクアウト中心だが、将来的には飲食できる店舗を目指す。また、ブルーベリーやラズベリー、ブラックベリーの栽培を始め、農業用ハウスではコーヒー豆の栽培にも挑戦している。
小規模農家の現実と未来への展望
農業用機械の維持管理や資材高騰など、小規模農家が直面する現実は厳しい。それでも高木さんは「未来は明るい」と前向きだ。会社勤めでは計画立案、実行、評価に基づく改善というビジネス手法を徹底的に実践してきた。「消費者のプラスになることを考えて実行すれば、農家にもビジネスチャンスはある」と信じている。
店名「コメノソラ アトリエ」には、「広大な空のようにお米の可能性を広げるための実験室」との思いを込めた。ビジネスで培った冷静な思考と年齢を感じさせないチャレンジ精神で、新たな農業経営の形を目指す。
「コメノソラ アトリエ」は岡崎市羽栗町多賀屋敷91に所在。営業時間は土・日曜日の午前10時~午後5時。駐車場6台完備。公式インスタグラム(@komenosora_okazaki)で情報発信中。問い合わせは050-5367-2538。



