世界的な半導体不足はようやく解消の兆しを見せているが、自動車業界には新たな試練が待ち受けている。電気自動車(EV)シフトの加速により、部品調達を巡る競争が激化し、地政学的リスクも高まっている。日本メーカーは従来のサプライチェーンを見直し、競争力を維持するための戦略転換を迫られている。
半導体不足の終焉と新たな課題
2020年から続いた半導体不足は、2023年後半から徐々に解消され、自動車メーカーの生産制限は緩和されつつある。しかし、業界は新たな問題に直面している。EVに搭載するパワー半導体やバッテリー管理システム用の半導体需要が急増しており、従来のエンジン車とは異なる部品調達網の構築が必要となっている。
ある自動車部品メーカーの幹部は「半導体不足が解消しても、EVシフトで全く新しい調達リスクが生じている。特に、中国依存の高いレアアースやバッテリー材料の確保が課題だ」と指摘する。
EVシフトで変わる部品調達地図
EVの普及に伴い、主要部品であるバッテリーやモーター、インバーターなどの需要が拡大。これらの部品は従来のエンジン車とはサプライチェーンが異なり、新たなサプライヤーとの関係構築が不可欠となる。特に、バッテリーセルは中国企業が世界市場の約7割を占めており、日本メーカーは調達先の多様化が急務となっている。
また、EV向けのパワー半導体では、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった次世代素材の採用が進んでおり、これらの素材の安定供給も課題だ。日本メーカーは、従来のガソリン車向け部品からの転換を迫られ、研究開発投資の拡大が必要となっている。
地政学リスクとサプライチェーンの再構築
米中対立やウクライナ情勢など、地政学的リスクも部品調達に影を落とす。特に、中国への依存度が高いレアアースやバッテリー材料は、供給途絶のリスクが指摘されている。日本政府は、経済安全保障の観点から、重要鉱物の備蓄やサプライチェーン強靭化策を推進しているが、企業レベルでも調達先の分散化が進んでいる。
自動車業界のアナリストは「日本メーカーは、これまで効率性を重視したジャストインタイムのサプライチェーンを構築してきたが、現在はリスク分散が優先される。在庫の積み増しや複数調達が当たり前になりつつある」と語る。
日本メーカーの競争力維持へ向けた戦略
こうした環境変化に対応するため、日本メーカーは戦略の見直しを迫られている。トヨタ自動車は、EV向けの統合部品調達プラットフォームを構築し、サプライヤーとの協業を強化。ホンダは、GMとの提携を拡大し、バッテリー調達の安定化を図る。日産自動車は、自社開発のe-POWERシステムに加え、EV専用プラットフォームの開発を加速している。
また、部品メーカーも対応を迫られている。デンソーは、SiCパワー半導体の生産能力を2025年までに3倍に拡大する計画を発表。また、アイシンは、EV向けのeアクスル(駆動ユニット)の生産を増強している。
業界再編の可能性
EVシフトに伴う部品調達競争は、業界再編を促進する可能性もある。特に、バッテリーや半導体など、巨額の投資が必要な分野では、企業間の提携や合併が加速するとみられる。すでに、パナソニックとソーラーフロンティアのバッテリー事業統合や、ルネサス エレクトロニクスによる半導体設計会社の買収など、動きが出始めている。
自動車業界は、100年に一度の変革期と言われる。半導体不足の解消は一息ついたものの、EVシフトという大きな流れの中で、日本メーカーが生き残るためには、従来のビジネスモデルを根本から見直すことが求められている。



