世界の電気自動車(EV)シフトが加速する中、その心臓部であるリチウムイオン電池のサプライチェーンに重大な死角が潜んでいる。現在、世界のEV用電池生産の70%以上を中国が占めており、この偏在が地政学的リスクを顕在化させている。日本は電池材料や製造装置で高い技術力を持つものの、量産体制では中国に大きく水をあけられている。
中国依存の現実
調査会社SNEリサーチによると、2023年の世界のEV用電池シェアは、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)が36.8%で首位、同じく中国の比亜迪(BYD)が15.8%で2位と、上位を中国勢が占める。日本勢ではパナソニックが6.4%で4位にとどまる。さらに、リチウム、コバルト、ニッケルなどの主要材料の精製工程でも中国は圧倒的なシェアを誇る。
「中国は電池のサプライチェーン全体を掌握しつつある」と、経済産業省の担当者は指摘する。実際、リチウムの精製能力の約60%、コバルト精製の約70%が中国に集中している。この依存体質は、地政学的緊張や輸出規制が生じた場合、日本のEV産業に深刻な打撃を与えかねない。
日本の強みと弱み
日本は電池材料や製造技術に強みを持つ。例えば、住友化学や三菱化学が手がける高純度の電解液やセパレーターは、世界の電池メーカーに供給されている。また、日立ハイテクや島津製作所は、電池検査装置で高いシェアを誇る。しかし、最終製品である電池セルの量産では、中国勢にコストと規模で劣る。
「技術で先行しても、量産で負ければ意味がない」と、業界関係者は語る。日本政府は蓄電池産業戦略を策定し、2030年までに国内生産能力を150ギガワット時に引き上げる目標を掲げるが、中国の計画(2025年までに3000ギガワット時超)に比べれば小規模だ。
脱中国の模索
こうした状況を受け、日本企業は脱中国の動きを加速している。パナソニックは米国にギガファクトリーを建設し、北米市場向けに生産を開始。トヨタ自動車と出光興産は、全固体電池の量産化に向け協業を発表した。また、鉱物資源の調達先多様化も進み、日本企業はオーストラリアや南米のリチウム鉱山への投資を増やしている。
しかし、中国の優位は容易に崩せない。中国は国内市場の規模を生かし、電池コストを2010年比で約80%削減した。さらに、電池リサイクル技術でも先行しており、資源の循環利用でもリードする。
今後の展望
EVシフトは気候変動対策の切り札だが、その実現には安定した電池供給が不可欠だ。日本は素材や製造技術の強みを生かしつつ、量産体制の強化と調達源の多様化を急ぐ必要がある。政府と企業の連携が、今後の競争力を左右するだろう。



