世界的な電気自動車(EV)の販売低迷が、バッテリー市場に大きな変調をもたらしている。各バッテリーメーカーは需要の鈍化を受け、生産計画の見直しや投資の延期を余儀なくされており、サプライチェーン全体に影響が広がっている。
EV販売減速がバッテリー需要に直撃
国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2024年の世界のEV販売台数は前年比で20%増加したものの、2023年の35%増から減速している。この傾向は特に欧州市場で顕著であり、補助金削減や充電インフラ不足が要因とされる。バッテリーメーカーは各社、需要見通しを下方修正している。
韓国のLGエナジーソリューションは、2024年の売上高目標を従来の30%増から20%増に引き下げた。同社の広報担当者は「市場の不確実性を考慮し、生産計画を柔軟に調整している」と述べている。また、中国のCATL(寧徳時代新能源科技)も、2024年の生産量を当初計画の400GWhから350GWhに縮小した。
各社の戦略見直しと投資延期
バッテリーメーカーは生産能力の拡大を急いできたが、需要減速により投資計画の見直しを迫られている。パナソニックホールディングスは、米国カンザス州に計画していた新工場の建設を2025年に延期することを発表した。同社のCFOは「市場環境を慎重に見極めながら、投資のタイミングを図る」とコメントしている。
SKオンも、ハンガリーの工場拡張計画を一時停止した。同社は「需要の変動に対応するため、柔軟な生産体制を構築する」と説明している。一方、サムスンSDIは、2026年までに生産能力を倍増する計画を維持するものの、設備投資のペースを緩める方針だ。
市場構造の変化と今後の展望
バッテリー市場の変調は、価格競争の激化も招いている。市場調査会社のSNEリサーチによると、2024年のリチウムイオンバッテリーの平均価格は前年比15%下落し、kWhあたり120ドルとなった。これにより、自動車メーカーはコスト削減の恩恵を受ける一方、バッテリーメーカーの収益性は悪化している。
また、リン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーの需要が高まっており、従来の三元系からのシフトが進んでいる。LFPはコストが低く、安全性に優れるため、低価格EV向けに採用が拡大している。CATLやBYDはLFPの生産を増強しており、市場の主導権を握りつつある。
アナリストは、バッテリー市場の成長は中長期的に続くものの、短期的な過剰供給と価格下落が課題になると指摘する。ブルームバーグNEFの予測では、2025年の世界のバッテリー生産能力は需要を約30%上回る見通しであり、さらなる生産調整が必要とされる。
政府の政策と業界の対応
各国政府はEV普及を促進する政策を打ち出しているが、その効果は不透明だ。欧州連合(EU)は2035年にガソリン車の新車販売を事実上禁止する方針を維持しているが、加盟国間で意見の相違がある。米国ではインフレ抑制法(IRA)による補助金が需要を下支えしているが、大統領選挙後の政策変更リスクも指摘されている。
日本政府は、蓄電池の国内生産基盤強化に向け、2024年度補正予算で約3,000億円を計上した。経済産業省の担当者は「バッテリーの安定供給はエネルギー安全保障上重要であり、技術開発と生産拡大を支援する」と述べている。
業界団体の日本自動車工業会は、EV普及には充電インフラの整備が不可欠と強調する。会長の豊田章男氏は「需要創出にはインフラ投資が重要であり、官民連携が必要だ」と指摘している。



