睡眠用イヤホン「寝ホン」市場拡大、アンカーとファイナルが最新製品を投入
睡眠用イヤホン「寝ホン」市場拡大、アンカーとファイナルが最新製品を投入

近年、「寝(ね)ホン」と呼ばれる「睡眠用イヤフォン」の人気が拡大している。睡眠用イヤフォンとは、単に寝ながら使えるイヤフォンのことではない。横になっても耳が痛くなりにくく、寝返りを打っても外れにくい小型設計など、睡眠時の使用を前提に作られているのが特徴だ。入眠をサポートするサウンドなど、睡眠に特化した機能を備える製品もある。

先駆的な存在のAnker(アンカー)は、睡眠用イヤフォン市場をリードする存在だ(※)。2022年10月に第1弾の「Soundcore Sleep A10」(以下、A10)、2024年7月に第2弾の「Soundcore Sleep A20」(以下、A20)、そして、2025年9月に最新製品の「Soundcore Sleep A30」(以下、A30)を発売した。(※)Euromonitor International (Shanghai)Co., Ltd.、2025年における睡眠用ヘッドフォン・イヤフォンの世界小売販売額。

最新製品A30の特徴

具体的な販売数や売上高は非公開だが、最新製品は、発売前に米Kickstarter(キックスターター)で実施したクラウドファンディングで、約4.57億円(2025年8月時点で308万7157米ドル、1ドル=148円で換算)を集めた。最新製品のA30は、睡眠時に気になりやすい「周囲の音」や「同居家族のいびき」に対応する機能を備える。耳の形状や装着状態に合わせてノイズを効果的に抑える「適応型ノイズキャンセリング」に加え、いびきを検知すると、それを打ち消すためのマスキング音を自動で生成して再生する「いびきマスキング機能」も搭載している。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

また、イヤフォン・ヘッドフォン専門ブランドのfinal(ファイナル、神奈川県川崎市)でも、睡眠時の使用を想定した小型ワイヤレスイヤフォンシリーズの累計販売数が30万台を突破した。現在は、新たに開発した夜専用イヤフォン「ZE500 NYUMIN」を応援購入サービスのMakuake(マクアケ)で販売中だ。同製品は、眠る前の使用を前提とし、より穏やかな音質にチューニングした。想定を上回る反響で、約5400万円を集めている(2026年8月中旬時点)。

アンカーの戦略

アンカーはモバイルバッテリーで知られるが、近年はオーディオ製品でも存在感を高めている。2016年に初のワイヤレスイヤフォンを発売、2018年にはオーディオ製品の自社ブランド「Soundcore(サウンドコア)」を発足させ、製品群を増やしてきた(現在は、同ブランドを「アンカー」ブランドへ統合済み)。2025年には、初めてアップルを抜き、完全ワイヤレスイヤフォンの国内数量シェア1位(※)を獲得。フラッグシップモデルの「Liberty(リバティ)」シリーズは、2万円以下でノイズキャンセリングや高いバッテリー性能など「消費者がイヤフォンに求める機能」を広く備え、支持されているという。(※)2025年1~12月における外部調査会社のデータを基にした全国有力家電量販店の販売実績集計/大手ECプラットフォームのランキングをもとにしたアンカー調べ。直営店などでの販売を除く。

「ワイヤレスイヤフォン市場が成熟する中、利用シーンを細分化することで、2台目、3台目として手に取っていただけると考えました。仕事やスポーツ用途は、すでに多く存在するため、世界的な課題となっている『睡眠』に特化して開発しました」(アンカー・ジャパン 執行役員 事業戦略本部長 芝原航氏)

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

従来のワイヤレスイヤフォンは、横たわっての使用を想定していないため、睡眠時に外れやすく、耳に痛みが生じやすい。この課題を解決するため、アンカーではイヤフォンの構造を一から見直した。そうして完成したのが、片耳約2.9グラムで指先に乗るほど小型のA10だ(現在は終売)。独自の2層構造イヤーチップで、装着時の圧迫感も減らした。専用アプリでは睡眠状態を記録・確認できる「睡眠モニタリング」に対応。イヤフォンを使ってアラームを設定でき、周囲を起こさずに起床できる。

ファイナルの取り組み

2007年に創業したイヤフォン・ヘッドフォン専門ブランドのファイナルも、近年、睡眠用イヤフォンに注力する。ファイナルの前身企業も含めると、同ブランドの歴史は1974年に始まっており、高い音響技術が強みだという。「レコードの針や高額なオーディオ機器を手がけてきた歴史があり、100万円を超えるヘッドフォンがフラッグシップモデルです。従業員55人のうち10数人が研究員で、研究開発の比率が高い組織です」(ファイナル 国内営業部/広報部 部長 森圭太郎氏)

同社の寝ホンの始まりは、2021年にさかのぼる。といっても、当時発売したのは「COTSUBU for ASMR」(希望小売価格8480円)という製品で、睡眠用ではなく、「ASMR特化」のイヤフォンだ。しかし、知らぬ間に寝ホンとして使われていたのだという。「同製品に搭載されている『バイノーラル技術』により、まるでその場にいるようなリアルな音を再現しています。当社が初めて同技術を搭載したのが、2019年発売の有線イヤフォン「E500」(希望小売価格1980円)でした。これが、ASMR愛好家や特定のシチュエーションを音声で楽しむ『シチュエーションボイス』を好む女性層に口コミで広まり、『ワイヤレス化してほしい』という声が多く届きました。そこで、登場したのが『COTSUBU for ASMR』です」(ファイナル 森氏)

さらに、ユーザーの声をヒアリングすると、「寝ながらイヤフォンを使っている」という声が多く聞かれた。「それならば入眠をサポートする製品をつくれば、需要に応えられるのではないか」と考え、入眠時に適した「ZE500 for ASMR」(希望小売価格8980円)を2025年に発売。これが、想定以上のヒットになった。「ZE500 for ASMR」は、片耳約3グラムとCOTSUBUより二回りほど小さくし、耳に触れる部分を柔らかいシリコンで覆うデザインに変更。さらに、挿入した際の深度を浅くすることで異物感を抑え、寝心地の良さを追求した。連続再生時間はイヤフォン単体で最大4.5時間と短いが、際立った小ささと、近接感のある「声」に特化した音質を両立させた。

市場の今後

最新製品「ZE500 NYUMIN」(希望小売価格1万1800円)は、前製品で支持された形状や装着感を踏襲しつつ、「音質」を大きく進化させた。通常、スマートフォンの音量調整は16ステップと決まっているが、アプリを使えば、より細かく音量を調整できる。入眠時は音の刺激をやわらげる必要があり、心地よいと感じる音量は個人差が大きいためだ。通常小さくなるほど聞こえづらくなる低音の声も、ぼやけないよう自動補正を搭載している。

「『心地よさ』の観点でも、あえてノイズキャンセリングを搭載しませんでした。同技術は、周囲の雑音を低減するために逆位相の音を出し続ける必要があります。かつ、いびきをマスキングするなら強力なノイズキャンセリングでないと難しく、鼓膜に負荷がかかります。これらを踏まえ、当社では全体的に音圧を下げることで音の角を取るアプローチを取っています。雑音は消えないけれど気にならないという耳栓のような『緩やかな遮音』を目指しています」(ファイナル 森氏)

同製品はマクアケで想定を上回る金額を集め、好調なスタートを切った。主な購入者は20代後半から40代で、狙い通り従来製品よりも広い層から関心を集めている。また、一般的なオーディオ製品より女性比率が高いという。2社では「寝ホン市場は広がっていく」との考えから、睡眠用イヤフォンの開発を継続していく方針だ。