企業が生成AIやAIエージェントを活用する中で、使えば使うほどコストが跳ね上がるという課題が浮上している。ITベンダー各社は、AI利用コストを可視化してROI(投資対効果)を出せるように管理するツールの提供を始めた。
「予算の壁」がAIエージェント活用の本格化を阻む
企業にとって、あらかじめAI利用コストをある程度想定できなければ、投資の意思決定が難しくなる。投資が決まらなければ予算が立てられず、ひいてはROIの見通しもつかない。この問題は、これから活用が本格化するAIエージェントにおいて深刻になるのではないか。企業のAIエージェント活用に立ちはだかる「予算の壁」をどのように破壊するか、ベンダーとユーザー企業が協力して着地点を見いださなければならない。この話題の最新の動きを取り上げながら、その着地点を探る。
SalesforceがAI利用コスト管理ソリューションを提供
「企業でのAI活用が進むにつれて、AIエージェントの台頭とAI利用コストをどうマネジメントするかが、新たな問題として浮かび上がっている」と、セールスフォース・ジャパンの三樹努氏(専務執行役員 製品事業統括本部 事業統括本部長)は、同社が2026年8月17日に開いたAIエージェント活用に向けた機能強化に関する記者説明会で、この分野の新たな問題についてこう述べた。
今回の機能強化は、上記の問題に対応するためのソリューションを提供するもので、その全体の内容は発表資料をご覧いただくとして、ここではAI利用コストの話にフォーカスする。三樹氏は新たな問題となっているAI利用コストのマネジメントについて、「当社の調査によると、AIモデルのトークン消費量は今後4年で24倍に急増すると見込まれている。より良いAIモデルをデプロイする以上に、効率的なAIアーキテクチャの構築がAI時代の勝ち筋になってきている」との見方を示し、ユーザー事例を紹介した。
その上で、AIとAPIが稼働する利用環境の中でそれらのトラフィックとトークン消費を管理してコストの可視化とガバナンスを提供する「MuleSoft Omni Gateway」と呼ぶソリューションを新たに提供することを明らかにした。AI利用コストの可視化については左上部に記載されている。
日本IBMとマネーフォワードも新ソリューションを発表
AI利用コストの可視化については、他のITベンダーも相次いで新ソリューションを打ち出している。ここでは以下の2社の動きを紹介しておこう。
まず、日本IBMは2026年8月18日、米IBM社がAIトークンの利用コストを含むAI関連支出と、測定可能なビジネス成果を結び付けて可視化できる「IBM Apptio AI Value & ROI」と呼ぶソリューションを9月末までに提供開始することを発表した。このソリューションを導入した企業は、「売り上げやコスト、スピード、生産性、リスクといった指標に基づいてAI施策の進捗や成果を評価できる」とのことだ。
同社によると、この新ソリューションの投入は「企業のAIへの投資拡大に対し、その成果を適切に説明し、評価を強化するニーズに応じたもの」としている。
もう1社は、会計ソフトをはじめ法人向けバックオフィスSaaSを提供するマネーフォワードだ。同社も2026年8月17日、法人のAI利用コストを一元管理するソリューションの提供を開始すると発表した。
新ソリューションは、法人のAI利用コストをダッシュボードで可視化する「マネーフォワード クラウドAIトークン管理」だ。さらに同社が提供している「マネーフォワード ビジネスカード」をAIツールの決済用カードとして活用し、AI関連支出を集約・一元化できる仕組みも整備する。これにより、「法人におけるAI利用の実態を透明化し、ガバナンス強化とROIの最大化を支援する」としている。
マネーフォワード クラウドAIトークン管理は、AI利用コストや利用量をダッシュボードで可視化し、一元管理できるプロダクトだ。API連携などでデータを取り込み、「ChatGPT」や「Claude」などのAIモデルについてユーザーごとに利用量を確認できる。また、期間を比較することでAI利用コスト増加の要因を特定しやすくなり、社内の適切なAI活用を実現するという。
また、マネーフォワード ビジネスカードは、カードごとに上限額や用途を指定できる「カードコントロール機能」や、バーチャルカードを複数枚提供できる。これらの点を活用し、AIツールの決済用カードとして、支払い先をAIツールのみに限定した運用が可能だ。これにより、AI関連とその他の支出を分けて管理し、AIの支出管理を一元化できるとしている。これは、すなわちクレジット決済だ。
同社ではこれらを通じて、「AIトークン利用量の可視化」と「AI利用コスト管理」の両面から、企業のAI活用におけるガバナンス強化を支援する構えだ。
このように、ITベンダー各社からAI利用コストを可視化してマネジメントできるようにするソリューションが提供されつつある。冒頭でも述べたように、企業にとってはあらかじめAI利用コストをある程度想定できなければ、投資の意思決定が難しくなる。投資が決まらないと予算が立てられず、ひいてはROIの見通しもつかないというマイナスのスパイラルに陥ってしまうことを筆者は危惧する。この問題は、とりわけこれから活用が本格化するAIエージェントにおいて深刻になるのではないか。
セールスフォース・ジャパンの三樹氏にこの点を会見で聞いたところ、同氏は次のように答えた。
「AIエージェントについては課金形態がどうなるか、まだ不透明な状況なので、コストを予測するのは現時点で難しい。課金形態については、従量課金(コンサンプション)と定額課金(サブスクリプション)がしばらく入り交じって、ROIにどう結び付けるかでバランスを模索していく形になるだろう。課金形態の『揺らぎ』がしばらく続く中で、お客さまの声を十分にお聞きしながら着地点を探っていきたい」
企業のAIエージェント活用に立ちはだかる「予算の壁」をどのように破壊するか。AIエージェント活用に向けたマネジメントの中でも、AIエージェントの普及そのものへの大きな障害となる問題だと、筆者は考える。三樹氏が言うように、ベンダーとユーザーが合意形成していくことで着地点を見いだしていきたいものである。



