政府は、人工知能(AI)のリスクに応じて規制の強弱を変える新たな法案を、来年の通常国会に提出する方針を固めた。複数の政府関係者が明らかにした。法案は、欧州連合(EU)のAI規制法を参考に、AIの活用が社会に与える影響を考慮し、開発者や事業者に対して透明性の確保やリスク評価を段階的に義務付ける内容となる。一方で、革新的なAI技術の育成や国際競争力の強化も視野に入れ、過度な規制にならないよう配慮する。
法案の概要と背景
法案は、AIをリスクの高低に応じて分類し、リスクが高いと判断されたAIシステムには厳格な規制を課す一方、低リスクのAIには自主的なガイドラインに委ねる方向だ。具体的には、人間の生命や健康、基本的人権に影響を与える可能性のあるAI(例:自律走行車の制御システムや雇用選考に用いるAI)は「高リスク」に分類され、事前の適合性評価や人間による監視の義務付けが検討されている。また、チャットボットやレコメンドエンジンなど比較的リスクの低いAIには、透明性の確保やユーザーへの通知義務などが課される見通し。
政府は、AI技術の急速な進展に伴い、偽情報の拡散やプライバシー侵害、雇用への影響など社会的リスクへの懸念が高まっていることを背景に、規制の枠組みを整備する必要性を認識している。一方で、AI分野での国際競争が激化する中、規制が innovation の阻害要因とならないようバランスを取ることが課題とされる。関係者によると、法案の策定にあたっては、有識者や産業界からのヒアリングを踏まえ、2024年中に骨子をまとめる方針だ。
欧州AI規制法との比較
EUのAI規制法は、2024年3月に欧州議会で可決され、世界初の包括的なAI規制法として注目を集めている。同法は、AIシステムを「許容できないリスク」「高リスク」「限定的リスク」「最小限のリスク」の4段階に分類し、リスクに応じた規制を課す。例えば、社会的信用スコアリングや職場での感情認識AIは「許容できないリスク」として禁止される。日本の法案もこの考え方を基本とするが、日本独自の事情を反映し、産業振興の視点をより重視する可能性がある。政府関係者は「EUの規制を単にコピーするのではなく、日本の産業構造や技術開発の実態に合わせた制度設計を目指す」と述べている。
また、EU規制法では、罰則として違反企業に対して全世界売上高の最大7%の制裁金が科されるが、日本の法案では罰則の厳格さについては調整中だ。産業界からは「過度な罰則はスタートアップの参入障壁になる」との懸念も出ており、政府は慎重に検討を進めている。
今後のスケジュールと課題
政府は、2025年の通常国会への法案提出を目指し、年内に与党内での議論を開始する。その後、パブリックコメントを経て、2024年中に法案の概要を決定する見通し。しかし、AI技術の進歩は速く、規制の対象範囲や基準をどう設定するか、また国際的な調和をどう図るかなど、検討すべき課題は多い。さらに、AIの定義そのものが技術進展に伴い変化する可能性があり、柔軟な見直しが可能な法体系が求められる。
専門家からは「リスクベースのアプローチは妥当だが、実際の運用ではリスク評価の基準が曖昧になりやすい」との指摘もある。政府は、AIの安全性を確保しつつ、日本のAI産業の競争力を高めるための法整備を急ぐ。



