2026年初頭、米AnthropicがClaudeベースの業務エージェント機能を発表したことで、SaaSのユーザーが減少する、いわゆる「SaaSの死」が起こるという説が再び注目を集めた。この概念自体は24年ごろに提唱されたものである。SaaSの提供企業は戦々恐々とし、実際に価格が下がるといった現象も発生した。しかし現時点では、懸念されるほどSaaS提供企業の倒産などが起きているわけではない。
SaaSの本質とAIエージェントの影響
多くの業務系SaaSは、本質的には「データベース+業務ロジック」である。業務ロジックを動かしているのは人間だが、エージェンティックAIがそれを動かすようになる。よってSaaSアプリケーションは、人間に対するUIを提供する必要がなくなり、AIの背後にあるデータベースへと変化するというのが一つの方向性である。
では実際にそのような変化は起きているのか。最近こうしたことを調査した例が2件ある。一つはエイトレッド(東京都渋谷区)が4月22日に公開した「AI時代のSaaS生存調査」だ。従業員100人以上の企業に勤務し、業務でAIを活用している情報システム・DX推進・経営企画部門の担当者107人を対象に、AI時代に生き残るSaaSの条件に関する実態調査を実施した。
もう一つはKiteRa(東京都港区)が6月4日に公開した「AI(生成AI・AIエージェント)利用実態調査」だ。日常業務でSaaSを利用している管理部門・専門部門に所属する20~59歳のビジネスパーソン1087人を対象に、「AI(生成AI/AIエージェント)の利用実態に関する調査」を実施した。
今回はこの2つの調査を見比べながら、一般企業はエージェンティックAIの登場によってSaaSの利用形態が本当に変わったのか、その実態を検証してみたい。
SaaSの利用率は高いが、分野による差
まず、KiteRaの調査によると、業務でSaaSを利用していると回答した割合は全体の94.7%に上る。特に、コミュニケーションツール(チャット・Web会議など)の利用率は91.5%と最も高く、次いでクラウドストレージ・ファイル共有が79.8%、プロジェクト管理・タスク管理が68.0%となった。一方、AI関連SaaSの利用率はまだ34.5%と低い。
エイトレッドの調査では、AIエージェントの導入によってSaaSの利用が減少したと回答した企業はわずか12.1%だった。逆に、AIエージェント導入後もSaaSの利用が変わらないと回答した企業は73.8%に達した。これは、AIエージェントがSaaSを代替するのではなく、補完的に使われていることを示唆する。
AIで代替できない業務とは
両調査から浮かび上がるのは、AIが代替しにくい業務領域の存在だ。KiteRaの調査では、SaaSの利用目的として「データ分析・レポート作成」(52.3%)、「顧客管理・営業支援」(48.1%)、「経理・財務管理」(45.6%)が上位を占めた。これらの業務は、単なるデータ処理だけでなく、人間の判断やコミュニケーションが不可欠な領域である。
エイトレッドの調査では、AIエージェントに任せたい業務として「データ入力・転記」(68.2%)、「スケジュール調整」(54.7%)、「問い合わせ対応の一次対応」(51.4%)が挙げられた。一方、AIに任せたくない業務として「顧客との交渉」(76.6%)、「クリエイティブな企画立案」(63.5%)、「社内の調整・折衝」(61.2%)が上位に来た。これらの業務は、人間の感情や文脈理解が求められるため、AIでは代替が難しいと認識されている。
SaaSは進化し、AIと共存する
「SaaSの死」という議論は、AIエージェントがSaaSのUIを不要にするという前提に立つ。しかし、実際の調査結果は、SaaSがAIと共存しながら進化している姿を示している。エイトレッドの調査では、AIエージェント導入後にSaaSの利用が増加した企業も14.1%存在した。これは、AIエージェントがSaaSの新たな活用方法を切り開いている証拠と言える。
また、KiteRaの調査では、SaaSの選定基準として「セキュリティ」(67.3%)、「操作性」(58.9%)、「サポート体制」(45.2%)が重視されている。AIエージェント時代においても、人間が使いやすいUIや信頼性は引き続き重要である。
結論として、「SaaSの死」はまだ現実のものではない。AIエージェントはSaaSを駆逐するのではなく、人間がより価値の高い業務に集中できるよう、SaaSと連携しながら業務効率化を進める存在として機能している。企業はAIとSaaSの適切な組み合わせを見極め、人間にしかできない業務を明確にすることが重要だ。



