物価上昇の波が続く中、消費者の財布のひもはかつてないほど固くなっている。ちょっと特別な嗜好品はもちろん、食品や日用品といった生活必需品でも「安さで選ぶべきか。それとも、少々値が張っても、本当に気に入ったものにするべきか。いや、そもそも、今買わなくてもいいかもしれない……」と、ためらった経験のある人も少なくないだろう。
従来の手法に頼るリスク
消費者の商品を選ぶ目がシビアになればなるほど、企業が単発の広告や割引・キャンペーンのような従来の手法だけに依存するリスクは高くなる。可処分所得の奪い合いが激化する中では「“多少高くても”選びたい」「“他のものを諦めてでも”欲しい」といったプラスの動機付けが必要になるからだ。
そんな厳しい局面を打開するための切り札として再注目されているのがコミュニティマーケティングだ。
コミュニティマーケティングの進化
2010年代半ば、SaaSの登場とともに流行したコミュニティマーケティングだが、当時は「コミュニティが売り上げ・利潤にどう貢献したのか」、その成果の証明が技術的に難しく、理念論に留まってしまった感がある。
しかし、AIをはじめとするテクノロジーの進化により「コミュニティで顧客と深い信頼関係を築き、中長期的な売り上げ・利潤の向上を図る」「新たな顧客を呼び込むエバンジェリストをコミュニティの中から生み出す」「コミュニティで収集した顧客の声を商品開発に生かす」といったコミュニティマーケティングの真骨頂を発揮できるようになった。
AI時代のコミュニティマーケティングを実践するミツカンの新ブランド「Fibee」(ファイビー)の事例をもとに、企業の生き残りを賭けたファン戦略の描き方を探る。本記事では、Asobicaが7月23日に開催したメディア向け勉強会の内容を紹介します。
「Fibee居酒屋」とは
「Fibee」は、発酵性食品の恵みを美味しく・手軽に楽しみながら「居酒屋」ができるとする、ミツカンの新ブランドだ。デニッシュやワッフル、グラノーラやバウムクーヘンなどさまざまな商品があり、ミツカン公式通販サイトやECサイトのほか、一部のスーパーやコンビニでも購入できる。
そんなFibeeのファンコミュニティが「Fibee居酒屋」だ。ミツカングループの共通会員基盤「Mizkan ID」に登録すれば誰でも入会できるため、Fibeeを愛用する熱狂的なファンだけでなく、居酒屋に興味はあってもFibeeのファンだと強く自認しているわけではない一般顧客も参加しているという。
いくら盛り上がりブームとはいえ、食品ブランドのコミュニティでどんなコミュニケーションが行われているのか、筆者は全く想像がつかなかった。運営が一方通行に発信しているだけで、ユーザーからの反応はゼロなんてことになったりしないのか。あるいは、古参ユーザーがコミュニティを牛耳って、居心地の悪い空気が漂ったりはしないのか。
実際のコミュニティ運営
ところが実際に入ってみると、想像以上に高い頻度で、しかも複数のユーザーが投稿していることが分かった。運営からの投稿に対しても、多くのユーザーが反応しており、アットホームな雰囲気に包まれていた。
「住民(ユーザー)の皆さまには、Fibeeのブランドを一緒につくるパートナーとして、どんどん乗り込んでもらいたいと考えている」という岡田真梨子さん(グロース事業グループ マーケティング・ダイレクト本部 マーケティング部)の言葉通り、Fibee居酒屋にはユーザーの帰属意識を高めるためのさまざまな仕掛けが施されている。
その一つがWelcomeページの存在だ。まずFibee居酒屋にログインすると「ゆる居酒屋コミュニティ『Fibee』へようこそ!」というページが開く。そこでは運営スタッフとして岡田さんと後藤由佳さん(グロース事業グループ マーケティング・ダイレクト本部 マーケティング部 マネージャー)が顔出しで登場し、Fibeeのオリジナルキャラクター「Fibees」(ファイビーズ)とともに、Fibee居酒屋でできることを紹介している。
主なコンテンツ
- みんなのおやつ・ごはんフォト……Fibeeに限らず日常的に食べたものを、写真やテキストでブログのように投稿できる場所
- 回覧板……ファンミーティングのレポートや新商品・キャンペーンの紹介、投稿動画やライブ配信のお知らせなど、運営スタッフがFibeeの最新情報を投稿する場所
- ラクさんの知恵袋……Fibee開発秘話(運営スタッフインタビュー)や食品の恵みコラム、Fibeesのキャラクター紹介など、長文の読み物系コンテンツがメインの場所。ちなみに「ラクさん」は単細胞/乳酸菌のキャラクター
他にも、なんでも自由に投稿できる「集会所」や、Fibeeをお店で見つけたら報告しあう「みつけた!Fibee」などもあり、すべてのコンテンツに対してユーザーは「いいね」やコメントを付けられる。
コミュニティとSNSの違い
SNSが普及している昨今では「わざわざ独自のコミュニティをつくらなくても、SNSの公式アカウントでも同じようなことができるのではないか」と考える人もいるかもしれない。だが「コミュニティとSNSでは、発信している人が異なることが分かってきた。不特定多数の目に触れない、心理的安全性が保証された空間の中だからこそ言えることがあるのだと感じている」と、コミュニティの意義について後藤さんは分析した。



