デジタル給与払い、導入2年で利用は5万口座 楽天が「最大3%還元」で拡大狙う
デジタル給与払い、導入2年で利用は5万口座 楽天が3%還元で拡大狙う

デジタル給与払いのサービスが始まって約2年が経過した。給与の一部または全額を決済サービスで受け取り、コード決済で支払いに使えるのが特徴だが、銀行振込に慣れた人には利用の動機が乏しいのが現状だ。実際、利用はまだ一部にとどまっている。

デジタル給与払いを提供する楽天Edyの常務執行役員・松村知彦氏と、楽天ペイメントのプロダクト開発部部長・鍋山隆人氏に、現在の状況を聞いた(肩書きは取材当時)。

導入企業は増えるが、利用は伸び悩む

デジタル給与払いは、厚生労働省の指定を受けた決済サービス事業者の口座を給与振込先として利用できる制度だ。従来の現金手渡しや銀行口座への振込に加え、資金移動業者などが選択肢に加わった。現在、指定を受けているのはPayPay、リクルートMUFGビジネス、楽天Edy、auフィナンシャルサービスの4社のみ。制度開始前後に申請した4社以降、申請段階に進んだ事業者は増えていないが、導入企業は少しずつ増えており、PayPayは2025年4月に導入企業数が100社を超えたと発表している。

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とはいえ、採用企業が増えても実際に利用する従業員は多くなく、利用金額も急拡大しているわけではない。第210回労働政策審議会労働条件分科会の資料によると、口座数は5万件、取扱金額は月間2.9億円程度だ。楽天Edyでは大手として大創産業(DAISO)が導入を決めており、今後の拡大に期待を寄せる。事業者としては楽天Edyが提供するが、決済サービスとしては楽天ペイで対応する。

信託方式という独自の選択

デジタル給与払いは、入金した給与が失われないよう資産保全を義務付けるなど安全性を重視した仕組みだ。銀行と同程度の資金の安全性を確保するため、厳しい制約があり、参入事業者が大手4社のみという状況につながっている。各事業者の審査にはかなりの時間を要し、松村氏は「厳格なルール作りに時間が必要だった」と振り返る。楽天Edyでは、給与を保全する仕組みとして他社と異なる「信託方式」を採用していたことも審査に影響したという。

デジタル給与払いでは、決済サービス事業者が破綻した場合、保証機関が全額弁済することが求められる。PayPayは三井住友海上火災保険、COIN+は三菱UFJ銀行、auはauじぶん銀行が保証機関となっている。楽天Edyは楽天信託が保証機関で、弁済資金を楽天Edyが楽天信託へ信託する方式だ。破綻時には6営業日以内に保証機関が労働者の指定口座に残高相当額の全額を振り込む設計で、他社と変わらないが、信託方式の仕組み自体の審査に時間がかかったという。

信託方式を選んだ理由について松村氏は「保証会社を使う場合、保証枠がユーザーの上限になってしまう課題があった」と説明。楽天Edyや楽天キャッシュを長年運営してきた実績を踏まえ、サービス成長に合わせて持続的に規模を拡大できる仕組みを重視したと語る。

日常使いと「最大3%還元」で普及を目指す

既存利用者の使い方について鍋山氏は、給与の一部から上限10万円以内で「日常で使うであろう額」を振り分ける「チャージに近い使い方」が多いと話す。「自動的にチャージされて便利」という声もあり、オートチャージのように使われているようだ。振り込まれた給与は「お小遣い」のように日常の買い物で使われることが多い。仕事の飲み会での割り勘送金や、楽天市場や楽天証券の投信積立など楽天グループのサービスでの利用もあるという。楽天ペイ給与受取が「楽天経済圏」への入り口となっている。

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一方、デジタル給与払い全体で利用が伸び悩んでいる点は大きな課題だ。松村氏は採用企業を拡大するために「最後の一押し」が必要だと指摘する。チャージの手間が省けるといったメリットだけでは企業は様子見してしまうケースが多い。そこで楽天ペイメントが提供するのが「最大3%還元」キャンペーンだ。従来の楽天ペイの支払いにおける最大1.5%の還元に加え、楽天ペイ給与受取ユーザーにはさらに1.5%を還元する。

例えば毎月の給与からお小遣いとして5万円を楽天ペイに設定し、対象決済で使い切れば最大1,500円が還元される。設定なしの場合は最大750円(1.5%還元)なので、大幅に還元率がアップする。導入企業にとっては福利厚生の一環となりうるというのが楽天側の考えで、大創産業の導入でも決め手の1つになったとしている。楽天はこのキャンペーンを継続的に実施していく考えだ。

制度の改善と今後の課題

デジタル給与払いは、認知度も制度もまだ不十分なのが正直なところだ。特に、決済サービスが4社から増えない点や、銀行口座などが必要な点は厚生労働省も課題として認識しており、改善の検討が始まっている。議論の中ではATMによる現金受取サービスが紹介され、口座を持たない外国人の利用に向けた施策も検討されている。

楽天でも、日払いや非正規雇用、外国人労働者を抱える事業者向けにサービスを改善していきたいとしつつ、決済サービスのさらなる参入による活性化にも期待を寄せる。そのためにも、現状の問題点を踏まえた制度の改正が不可欠と言えそうだ。